2021 Fiscal Year Research-status Report
Formal imaginations in modern music. The analysis of discursive and compositional strategies in Messiaen, Dutilleux, and Boulez.
Project/Area Number |
20K00133
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Research Institution | Tokyo College of Music |
Principal Investigator |
藤田 茂 東京音楽大学, 音楽学部, 教授 (30466974)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 現代音楽 / 20世紀音楽 / 言説研究 / 草稿研究 / デュティユー / フランス音楽 / 創作過程 / 音楽と文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
感染症の世界的蔓延は2021年度中も終息せず、国外での草稿研究は不可能となった。そのため今年度は、その代替措置として、2015~2017年度の科研研究で制限と自由の観点からその草稿を研究していたデュティユーの諸作品について、その成果をフォルムの想像力の観点から読み直し、これを新たな言説研究と突き合わせることに注力した。その結果、とくにチェロ協奏曲《遥かなる世界が》について、重要なアイデアが得られた。 今年度の新たな言説研究の推進力となったのは、各国の歴史的新聞のデータベースと、フランス国立視聴覚研究所のデータベースであった。これまで、デュティユーのチェロ協奏曲は、ボードレールの『悪の華』にもとづくバレエの企画が1968年に流れたあと、そこから1970年にかけて、その詩的インスピレーションを活用しながら、集中的に作曲されたと主張されてきた。しかし、上記データベースを調査した結果、デュティユーは、1966年9月にも1967年12月にも、このチェロ協奏曲の実質的な完成予告を出していることが分かった。 これは、このチェロ協奏曲が『悪の華』の詩的イメージから全面的に作られたものではないことを示している。このチェロ協奏曲においては、その作曲を完成間近まで引っ張ってきた、もっと根源的な形式的想像力に、最終段階で『悪の華』の詩的イメージが干渉したと考えるのが妥当なのである。 また、ここでいう「根源的な形式的想像力」が、作曲家の変遷していく時間意識と密接に結びついているという発見も、今年度の言説研究の成果のひとつである。デュティユーにおける変奏の重要性は繰り返し指摘されてきたが、諸作品の初演時にデュティユー自身の提供したプログラム・ノートを収集し、時系列的に検証した結果、同じ変奏でも、直線的変奏から円環的変奏、さらには、「共時的」変奏へと、その根本的な意味が変わっていくことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度の気づきを受けて、言説の調査範囲をさらに拡大し、特にフランス視聴覚研究所のデータベースを活用して、作曲家の肉声による証言の収集に進むことができたのは、今年度の収穫であった。しかし、言説研究とならぶ、もうひとつの研究の柱である草稿研究については、感染症の影響を免れることができず、今年度中に再開することができなかった。そのため、前年度と同じく、一方の草稿研究の遅れと一方の言説研究の進展とを総合して、「やや遅れている」との判断をした。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題の言説研究は、フォルムに関わる詩的イメージを抽出することを目的として開始した。しかし、最新の伝記研究が明らかにしている作曲家の個人アーカイヴの情報、また、整備の進む歴史的新聞と視聴覚資料の電子データベースを最大限活用して言説研究を徹底することで、これが作品の成立年代など、フォルムの想像力を検証するうえでのもっとも基本的な情報をも更新する可能性があることに気づいた。それゆえ、対象とする作曲家について、可能な限り網羅的な言説収集を進める方針に転換する。草稿研究については、世界情勢をよく見て、再開のタイミングを見つけることとする。
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Causes of Carryover |
昨年度から感染症の影響を受けており、国外での草稿研究の実施延期が続いているため、そのための旅費ならびに物品費を次年度以降に繰り越して使用することになった。研究期間の延長も視野に入れつつ、草稿研究の再開を待つ予定である(次年度には、具体的な渡航計画がある)。また、言説研究が研究開始当初は予想していなかった広がりで進展しているため、一部は、そのためのデータベース利用料などにも充当する計画である。
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