2022 Fiscal Year Research-status Report
Collaborative production of performing arts in Weimar Germany and the popularity of body expression
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20K00137
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
大林 のり子 明治大学, 文学部, 専任准教授 (00335324)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 1920年代 / モスクワ芸術座 / マックス・ラインハルト / 演出 / 無言劇 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、1920年代のドイツ語圏において試みられた身体表現を中心とした無言劇やパントマイムの制作が、いかに国際的な巡演公演を見据えて展開されたのかについての資料調査を進めつつ、20年代のアメリカへの遠征公演の事例について再検討を試みた。 演出家マックス・ラインハルトの無言劇『奇蹟』については継続的に、1920年代にアメリカ公演を実現した際の新演出における現地の興行主やパトロン、舞台美術家との共同における現地観客に向けた舞台製作の状況を調査し、また、1910年代の最初のロンドンにおける演出の詳細についても考察をしてきた。 このラインハルト演出では、現地の観客をいかに意識していたのか。そのポピュラリティの性質をさらに明らかにするため、今年度は1920年代のほぼ同じ時期に、同じ興行主やパトロンの企画として実現されたモスクワ芸術座のアメリカ公演、その上演のアメリカを巡る製作側の意図、当時の演劇状況、そして観客の反応について再考し、ラインハルト演出の受容の状況との相違点を探った。 その成果は論文「ラインハルト演出のアメリカ公演(二)ーモスクワ芸術座の海外公演との対照」(『演劇学論叢』22号)に纏めた。モスクワ芸術座も同様にヨーロッパ発祥の総合的なアンサンブル演出が高く評価されたが、そこには基本的な違いもあった。ラインハルトが無言劇として身体表現を主とした舞台演出を、現地スタッフや現地で集めた俳優により演出に携わったのに対し、モスクワ芸術座はロシア人俳優たちとともにロシア語で上演している。俳優の言葉と体が一体となった自然な演技は、演劇人にとってそのテクニックの確かさが高く評価されるが、一方で一般的な観客にはテクニックが見えにくく、演出という手つきも感じにくいものであったと考えられるが、対してラインハルトは演出のテクニックをあえて魅せ、ポピュラリティを獲得していったと考えられるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究期間中、海外調査に出かけることが難しく、すでに手元に収集済みの一次資料と先行研究として書籍や論稿を研究を進めている。二〇年代のドイツ語圏の舞台製作の状況を知る手がかりとしてマックス・ラインハルトとその周辺の人々の仕事に関する資料は、これまでの研究の蓄積もあり、基礎研究は充分に進んでいる。また同時代の批評についても一定数は参照可能である。 遅れている理由の第一は当初予定していた海外調査が思うように実施できていないことが理由にあげられる。加えて、舞台上での身体表現、非言語表現に焦点を当てるという課題は、演出家、俳優、舞踊家、音楽などの作り手側の試行錯誤と合わせて、当時の一般的な観客にどのような効果をもたらしたのかなど、受容側の反応についても資料収集の可能性を広く探る必要がある。その資料収集の部分を、今後進めていければと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
予定の研究期間である3年目で充分に進められなかった調査研究について、1年、期間を延期し、必要な調査と分析を進めていくこととする。 特にまだ調査が充分ではない、1920年代のドイツ国内および当時積極的に行われていた海外公演における舞台製作の状況のなかで、課題であるポピュラリティを獲得した演目をもう1,2作選択し、その製作過程と受容側の期待や成果を示す資料(批評や評判)の収集および分析を進める予定である。
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Causes of Carryover |
主たる理由は、コロナ禍の期間にあたり、海外の調査が実施できていないことにある。1年期間延期により、当初予定していた調査をさらに進めていく予定である。
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