2021 Fiscal Year Research-status Report
上演芸術における「文化の編み合わせ」:1920年代フランスの「能」研究とその受容
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20K00139
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Research Institution | Osaka University of Arts |
Principal Investigator |
長野 順子 大阪芸術大学, 芸術学部, 教授 (20172546)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 上演芸術 / 前衛劇運動 / 能楽 / 仮面 / 身体所作 |
Outline of Annual Research Achievements |
20世紀初頭ヨーロッパの前衛劇運動に関わった人々が共有していた日本の「能」への関心とそれがもたらした影響をめぐる「文化の編み合わせ」について、以下のような調査と研究を行った。 (1)イギリス人演出家G.クレイグ編集の演劇雑誌『仮面』(1908-29)で度々紹介された日本の伝統芸能のなかでとくに「能」は、20世紀前半ヨーロッパの演劇改革に示唆を与えた。それは、クレイグの思想に傾倒していたフランスの演出家J.コポーがヴィユ=コロンビエ劇場付き演劇学校の訓練に「能」を取り上げたことにも見てとれる。ここでの仮面の使用や抑制された身体所作及び舞台空間の構想は、現代演劇やパントマイムの端緒を開くことになった。 (2)さらにラディカルな前衛劇の実験場となるプラトー劇場の主宰者P.アルベール=ビロー〔以下PABと略〕の活動について、彼が最初は画家・彫刻家としてアカデミックな作風の制作を進めながら、当時活発になってきた文学や美術の前衛運動と関わり、1916年に前衛芸術の雑誌『SIC』を創刊した経緯を調査した。詩人G.アポリネールの「シュルレアリスム」(彼自身の造語)的戯曲の演出などを通して、後にPAB自身も奇抜な人形劇や舞台作品を上演することになる。 (3)1927年頃、ヴィユ=コロンビエ劇場で芦田栄と舞踊公演を行っていた瓜生靖は芦田の急死後にPEBを訪れたが、それは以前PABが彼のマイムに感嘆していたこととも関係するであろう。瓜生についての記録は少ないが、その軌跡が徐々に分かってきた。この機会にPABが彼のために書いた二つの短い習作劇は、PABのそれまでの非現実的で奇抜な作品とは異なり、市民劇風の現実性を静かに脱構築しようとする点に後の不条理劇の先取りを見ることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
G.クレイグ、J.コポー、P.アルベール=ビローらの手稿その他を含む資料及びフランスの前衛劇運動の諸資料をさらに調査するためにフランス国立図書館(BNF)その他での作業を予定していたが、新型コロナウィルス感染拡大のためにかなわなかった。また、シュルレアリストの女性写真家クロード・カーアンの前衛劇に関わる活動等についても、出身地ナントのメディアテークにおけるアーカイブや市立美術館での調査がかなわず、彼女のセルフポートレートにおける仮面や人形振りをその前衛劇との関わりにおいて考察する作業がまだ進んでいない。なお、2021年8月に開催予定であった北フランスのCerisy国際文化センターでのシンポジウムは2022年8月に延期されることになり、その打合せも進んではいるが、実際の開催についてはコロナの感染状況に加えて昨今の国際情勢もあり確実とはいえない。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)明治維新の欧化政策により廃絶の危機にあった日本の「能」が、雑誌『能楽』の発行(1903年)や『世阿弥十六部集』の出版(1909年)などを機に再興していったことと並んで、アメリカ人E.フェノロサ(とE.パウンド)、フランス人N.ペリやP.クローデルらによる能への傾倒や能研究が進行していたこと、また彼らの帰国後ヨーロッパ各国に普及した「能」作品の翻訳や研究の前衛劇運動への影響などを、上演芸術における諸文化の編み合わせの一事例として確認する。 (2)P.アルベール=ビローが発行した前衛雑誌『SIC』の果たした役割とともに、後のプラトー劇場における諸作品上演の詳細について調査を進める。またこのプラトー劇場での瓜生靖の活動とも交差するC.カーアン(科学研究費研究:課題番号26370097のテーマ)の前衛劇への関わり方について、彼女の写真作品における仮面と人形的所作、その演劇性とも連関させつつ再考する。 (3)Cerisy国際文化センターで開催予定のC.カーアンをテーマとしたシンポジウムでの発表原稿を推敲する。また日本で最初となるカーアンの展覧会については、2024年に愛知県美術館で開催されることになり、ようやくその準備作業に取りかかることが可能になったので、それと関連する小シンポジウムの計画等も立てていきたい。
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Causes of Carryover |
2021年度も新型コロナウィルス感染拡大によりフランス国立図書館その他における調査のための海外出張ができず、また東京の諸施設での資料調査等も控えざるを得なかった。ただ次年度も国内の調査出張は少しずつ可能になるとしても、海外出張はやはりまだ難しいかもしれない。なかなか手に入りにくい文献資料の収集と関連機器の整備に努める予定である。
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Research Products
(1 results)