2020 Fiscal Year Research-status Report
アンビルト作品の可視化に向けた創造的アート・アーカイブの試み
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20K00140
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Research Institution | Konan Women's University |
Principal Investigator |
八尾 里絵子 甲南女子大学, 文学部, 准教授 (10285413)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北市 記子 大阪経済大学, 人間科学部, 教授 (90412296)
門屋 博 相模女子大学, 学芸学部, 教授 (80510635)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アート・アーカイブ / アンビルト / 山口勝弘 / イマジナリウム / 創造的アーカイブ / 藝術文化誌『紫明』 / オンライン展覧会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「アーカイブに「創造性」が可能か、あるいは必要か? 」というアプローチから導き出した指針を元に、「故人となった美術家の構想をどのように可視化すべきか? 」を実践することを目標としている。初年度は前者の調査のため、「創造的行為」の本質を探るための美術資料とその周辺資料のアー カイブ手法を模索した。 まず先行事例として、3件のアートアーカイブの活動を調査した。東京藝術大学文化財保存修復センター準備室による「日比野克彦を保存する」展では存命作家のアーカイブを実践しており、膨大な資料を「中心から周辺へ」という分類方法でアーカイブ方法を提示した。次に、横尾忠則現代美術館アーカイブ室の訪問では、今も増え続けるアーカイブ資料の収集と保存の現状について見学すると共に、本研究対象の山口勝弘と横尾忠則が同時期に活躍していたこともあり密な意見交換も行なった。また、オンラインでは、慶應義塾ミュージアム・コモンズのオンライン展覧会「Keio Exhibition RoomX: 人間交際」が開催され、オンラインならではの利点が実践されており、デジタル空間ならではの理想的な方法といえよう。 アーカイブ資料の保存方法と今後の展示方法について考察したこれらの調査を参考に、本研究で借り受けている美術資料の保管場所を確保し、その内容調査を本格的に開始した。中でも発見した数点の藝術文化雑誌『紫明』については、表紙のビジュアルを晩年の山口が提供していることが判明し、現在はその表紙について調査を始めた。この調査にあたり、丹波古陶館の『紫明』編集部様のご厚意で、現在まで発刊している全號48冊を貰い受け、引き続き円滑な調査が実施できる状態となった。 美術出版社の「美術手帖」2021年4月号において「アーカイヴの創造性」の特集が組まれており、国内におけるアートアーカイブが喫緊の課題であることにも注目しておきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度からコロナ禍となり、少なくとも夏季までは各々が所属機関の対応に追われてしまった。また、数年は移動を伴う調査に制限があると考え、借り受けている山口勝弘の美術資料についてもの研究当初の保管場所である相模女子大学から移動をせざるを得なくなった。山口のご家族は東京在住であるが、関西への資料の移動について快諾して頂き、現在は大阪経済大学近郊に保管場所を定め、全ての資料の移動を完了した。その移動作業前には相模女子大学において、資料のほぼ全体を撮影し終え一部のデータ整理も行ったが、細かな分析については今後、分担して行うこととなる。 このように、資料を移動したことにより比較的要領よく調査ができる状態となったが、ある程度広い場所が必要な作業(実際の物品を並列などして全体像を調査する)はできず、狭スペースでこまめに作業を進めてゆかねばならない点は、当面の課題として残っている。 これまでの研究活動は対面での調査を主としていたが、今後の社会のさらなるデジタル化を考慮すれば、アートアーカイブの為の新たな調査方法として、積極的にオンライン化してゆきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は全ての資料を関東から関西へ移動することを主とし、移動前には全ての資料の撮影をほぼ完了することができた。その為、移動後は、それらネットワーク上に保管したデータを利用して、資料の内容確認や分類を行う作業を共同で行うことが可能となった。2年目はその継続作業と、新たに入手した資料のデータ化とリスト作成といった分類作業が必要で、これに関しては、調査補助要員の技術的なサポートを必要としている。補助作業は、資料の撮影やスキャン、色合わせ、リスト作成、テキスト書き起こし等を想定している。 令和2年度の予定は、今年度に撮影した資料データの分析である。資料の大半は魑魅魍魎としているが、まずは、研究の概要で記した「日比野克彦を保存する」展でのアーカイブ資料の分類方法である「中心から周辺へ」を採用してみたい。本課題の「創造的アーカイブ」を目指す為に、分類方法を研究者間で統一し、その基準を元とした資料のアーカイブを行ってゆく。この作業については、研究者らが直接的に行う必要がある。 また、初年度に発見した資料の一部から、晩年の山口の創作活動が新たに明らかになったという経緯を重視し、今後、展覧会という形式で社会に公開する準備を整えてゆきたい。本研究2年目の経費用途は、ネットワーク上の作業環境の継続維持と作業補助要員の新規雇用、その他、作業に関連してバージョンアップする必要が生じた機材類と想定している。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため遠距離の移動を伴う現地調査を行わなかった為、今年度確保していた旅費は使用しておらず、直近での長距離移動は期待できない。出張調査を最小限にしたこともあり、物品の購入と配達のための軽微な出費は増加した。一方、ネットワークを用いた情報共有のための環境整備については予定通り支出している。 資料の作業場所の確保が困難な状態が続いた為、作業用の機材(AdobeCCをインストールしたPC、27inch程度のディスプレイ等)の確保が遅れている。2年目以降、作業補助要員の雇用の見込みが立った為、補助員も使用することを想定した機材の確保を速やかに行いたい。 尚、コロナ禍で研究を進めてゆくなかで、本研究申請当初の経費執行の金額傾斜に変更が生じてきている。当初は初年度に最も経費をかけ、国内外を含めたアーカイブの実情調査から行う予定であったが、まず近辺の資料の調査に着手した。それに伴い調査手順と方法も変更したため、最終年度に向けて経費執行率が上がることを想定している。
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Remarks |
研究成果の公開方法をオンライン展覧会と想定している。現在はInstagramを用いた研究プロセス写真のアップデートやDropBoxを用いたデータ共有、Googleサイトを用いた展覧会試作サイトの作成など、確認のための限定公開は行っている。
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