2021 Fiscal Year Research-status Report
ロシア・バレエの越境的展開に関する研究と国際的ネットワークの構築及び発信力の強化
Project/Area Number |
20K00144
|
Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
平野 恵美子 中京大学, 教養教育研究院, 特定任用教授 (30648655)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | バレエ / アンナ・パヴロワ / バレエ・リュス / 帝室劇場 / マリウス・プティパ / ミハイル・フォーキン / アルテュール・サン=レオン / アレクサンドル・シリャーエフ |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の研究実績として、まず、コロナ禍のため2020年度から延期され、オンライン開催となった国際学会The 10th World Congress of the International Council for Central and East European Studies, Concordia University in Montreal (ICCEES)にて行なわれた、偉大な振付家マリウス・プティパの最後の振付作品である失われたバレエ《魔法の鏡》の「失敗」の理由とその音楽についての報告がある。 また、本年も英国Victoria and Albert Museumの著名ダンス・キュレーターであるJane Pritchard氏を招いて、ロシア帝政末期から20世紀初頭に活動したバレエ・マスター、アレクサンドル・シリャーエフに関する公開オンライン・レクチャーを行なった。シリャーエフは、舞踊を映像に収めたパイオニアの一人で、人形アニメーションを使って、マリウス・プティパの振付を記録したことは、舞踊史上、非常に大きな功績であるが、とりわけ日本では知られておらず、これをおそらく国内で初めて紹介できたことは大きな成果であった。この他に、マリウス・プティパの評伝を著して高く評価されたバレエ史研究者で、有名なダンス・ジャーナリストのNadine Meisner氏による公開オンライン・レクチャーも開催した。Meisner氏は、パリ・オペラ座とロシア帝室劇場で、プティパ以前に活躍したバレエ・マスター、アルテュール・サン=レオンによる舞踊譜を含む著作について報告した。両レクチャーとも、国内外から多くの専門家と一般の愛好家が参加して、活発な議論が行われた。これにより、日本におけるバレエ研究の基盤を強化し、グローバルな発信力を強めることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の国際学会ICCEESにおける報告では、日本からの発信により、本研究の課題の一つである「日本で行われるバレエ研究を海外で積極的に紹介する」ことに貢献できたと考える。今日のクラシック・バレエの父といえるマリウス・プティパの研究は欧米が中心である。特に、ロシアや欧米以外のバレエ研究は、自国のエキゾチシズムを強調するものが多い中、欧米の研究と対等な内容・レベルの発表ができた。また、当該セッションでは、ロマンティック・バレエの研究で知られる米国のElizabeth Kendall氏がコメンテータを務め、知己を得ることが出来た。 英国のバレエ研究者とは、Jane Pritchard氏、Nadine Meisner氏とICCEESでパネルを組んだ他、先述のように国内外に向けたオンライン・レクチャーを開催し、欧米中心のバレエ研究界に、日本を含む越境的・国際的なネットワークの構築を順調に進めている。 ただし昨年度に続き、コロナ禍の影響により双方向の渡航が困難で、対面での講演会やアーカイヴでの調査研究は滞っている。しかし怪我の功名的側面もあり、コロナ禍で発展したオンライン方式により、シンポジウムや講演会等に、国内外からまさに越境的な参加が可能になったのも事実である。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、コロナウィルス感染拡大防止のための規制もいよいよ大きく緩和されることが期待されるので、海外のバレエ研究者を日本に招き、講演会やシンポジウムを開催したい。同時にせっかくオンライン方式が一定程度、開発され発展したので、対面とオンラインのハイブリッドで行なうことにより、前年度同様、海外からの参加も積極的に呼びかけたい。 一方、2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響により、規制が緩和しても、ロシアからの招聘は困難が予想される。だが、この報告を書いている時点で、ロシアへの渡航は不可能ではないようなので、できれば現地へ赴き、国際学会で報告したり、旧知の研究者たちと対面で意見・情報の交換をしたりする。戦争の影響は芸術や文化にまで及び、「ロシアもの」の公演キャンセルが相次ぐ今こそ、将来につなぐため、ロシアに関する研究は継続しなければならない。 このほかに、研究推進者の成果を英訳または露訳して出版したい。日本語で書かれた研究書は日本以外で読まれることはまず無いため、海外で出版することで、日本からの国際的なバレエ研究の発信力を高めたい。
|
Causes of Carryover |
最も大きな理由は、コロナ禍のため、当初予定していた海外からの研究者を招聘できなかったこと、また研究代表者自身による研究調査のための旅行も困難だったため、旅費がほぼ使用されなかったことによる。また、オンライン方式で開催された公開レクチャーは、北海道大学のプラットフォームで行われたため、講演者や通訳への謝金が分担され、使用額が予定より少なくなった。 2022年度はこれまで叶わなかった海外研究者の招聘のための旅費、研究代表者の調査旅行、また研究成果の翻訳と出版等のために、助成金を使用する予定である。
|