2020 Fiscal Year Research-status Report
Research for Establishing Butoh Dance as a Category of Art through Field Investigation
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20K00156
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
小菅 隼人 慶應義塾大学, 理工学部(日吉), 教授 (40248993)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 北方舞踏派 / 鈴蘭党 / 舞踏 / 土方巽 / ビショップ山田 / 雪雄子 / 地方と中央 / 東北・北海道 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究のテーマである「暗黒舞踏を芸術的カテゴリーとして確立するための実証的研究」は,北方舞踏派と鈴蘭党の2つの舞踏グループに大きな関心を払いつつ,舞踏全般を対象に,その根本にどのような特異的な価値があったかを追求するものである.北方舞踏派と鈴蘭党は,山形県と北海道小樽を中心に活動し,舞踏は1980年代から海外への進出も積極的におこなった.本研究の方法の中核には,その実態調査と現在への影響調査があった. しかし,コロナウイルス感染症の流行によって,当初計画を変更し,舞踏の地方での展開の基礎調査を行うことにした.とはいえ,本研究の基本的方法である対面調査は是非とも必要であったため,感染症対策に万全の配慮をし,また,訪問先の理解も得て,①金沢において,舞踏家,山本萌と白榊ケイへの対面調査(8月),②東京において,演劇プロデューサー高萩宏への対面調査(12月),③横浜において,舞踏家正朔への対面調査(2021年1月)を行うことができた.これにより,舞踏が地方に広がっていく時の舞踏家の意識と周囲の状況,および,1980年代から起こったアングラ芸術(舞踏を含む)から遊眠社,第三舞台への観客の嗜好の変化について,実際の証言を得ることができた. 上記の調査は全て,学術誌において発表済み,あるいは発表予定である.また,前年度(2020年1月)に行った東北在住の舞踏家である森繁哉への対面調査を,この研究と関連付けて,文字化して研究誌に発表した.これらに加えて,北方舞踏派の代表的人物であるビショップ山田の公演(2020年10月)に合わせて,講演を行い,小論文も発表した.さらに,現役最高齢の舞踏家の一人である笠井叡の公演を制作し,インタヴューを映像に残した.これによって舞踏の芸術理念が明らかにされ,それが,映像と一般公開されたことは,本研究の内容開示の上で大きな業績になったと考えている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は,コロナウイルス感染症流行のため,2020年4月より勤務先大学がロックダウンされた.この閉鎖は緊急事態宣言の解除と共に解かれたが,それ以降の研究活動が大幅に制限された.また,海外での発表,研究交流は事実上不可能となり,国内での移動も大きな制約を受けた. 本研究では,当初,2020年夏のIFTR(国際演劇学会)への参加と発表,EASJ(ヨーロッパ日本演劇研究協会)への参加と発表を通して,情報収集と議論の洗練を目指していたため,両学会が2021年度へ延期となったことは研究上の大きな打撃であった. さらに,国内においては,本研究の中心的なテーマである舞踏の地方拡散の調査において大きな影響を受けた.東北地方は,当初,コロナウイルス感染症が殆ど出ておらず,したがって,東京から訪問することが社会的にも許されない状況にあった.また,逆に,北方舞踏派と鈴蘭党の主要な活動地であった北海道は当初,感染症の流行が激しかったため,殆ど活動ができず訪問も制限されていた. これを踏まえて,2020年度は,感染症対策に万全を期した上で,首都圏で対面調査ができる舞踏家,制作者にターゲットを絞り,対面調査を行った.また,金沢への相手の了解を得て,感染症が一時的に小康状態となった8月終わりに訪問を実施した.さらに,今年度は,資料収集や周辺調査を優先させ,1980年度のアングラ演劇から現代演劇への過渡期に活躍した劇場プロデューサーへの対面調査を実施した. これらの活動によって,当初の計画実施を断念した部分もあったが,逆に土台固めとしては有利に働いた部分もあり,二年目以降の計画に繋がる年度になったとも考えられる.例えば,舞踏家笠井叡の公演を無観客で実施し,それにインタヴューを加えて映像配信したが,これには3か月で2000回の視聴があった.これはテクノロジーを使っての研究実施のヒントともなった.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)2020年度の研究を踏まえ,延期となっていた,国際学会でのオンライン発表を行う予定である.①EASJ(ヨーロッパ日本演劇研究協会)での舞踏の「トーン」についての発表,②SWC(国際シェイクスピア学会)での舞踏との関連性を意識しつつ,現代の『マクベス』のアダプテーションについての発表,③IFTR(国際演劇学会)でのパネルディスカッションの司会とコーディネートを含む. (2)インタヴュー調査を継続する予定である.特に,舞踏の地方拡散という意味でも,女性舞踏集団という意味でも大きな意味を持つ鈴蘭党についての実態調査のため,そのメンバーであった,長谷川希誉子,鈴木美紀子への対面調査を予定している. (3)上記の発表とインタヴューはいずれも,学術誌において公開する予定である.
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Causes of Carryover |
当初予定していた海外旅費の支出がなくなり,国内調査や基礎調査による消耗品費などに支出したが残金が出たため.今年度の図書費および消耗品費に充当する予定である.
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