2020 Fiscal Year Research-status Report
19世紀パリのグランド・オペラ―ジャンルの生成からトランスナショナルな展開へ
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20K00161
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
丸本 隆 早稲田大学, 法学学術院, 名誉教授 (60030186)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
東 晴美 日本女子大学, 文学部, 研究員 (10277808)
嶋内 博愛 武蔵大学, 人文学部, 教授 (10339674)
奥 香織 明治大学, 文学部, 専任講師 (30580427)
平野 恵美子 神戸市外国語大学, 外国学研究所, 客員研究員 (30648655)
澤田 敬司 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (50247269)
岡本 佳子 神戸大学, 国際文化学研究科, 講師 (90752551)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | グランド・オペラ / パリ・オペラ座 / 19世紀オペラ / 19世紀フランス文化 / パリの演劇文化 / マイアーベーア / オペラの異文化圏における受容 / 演劇とオペラ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、①同時代の諸ジャンル等との関連におけるグランド・オペラの生成、②オペラ作曲家の双璧とされるヴェルディやヴァーグナーを中心としたイタリア、ドイツとの関連、③その他地域へのさらなる発展の方向性を意識しながら、各々が担当の研究を進めている。 初年度当初より、感染症蔓延による渡航制限のため、申請時に計画していた国外での資料調査は実施できなくなったものの、交付決定以前から各自が重ねてきた研究を深めながら、それをグランド・オペラやパリの文化環境との関わりを意識した論考にまとめていった。 論考のトピックに以下の5点が挙がった。①グランド・オペラ自体をオペラ研究史に位置づける考察(グランド・オペラとは何か、オペラ座とグランド・オペラ-作曲家と作品、その特徴と歴史的・社会的背景、ナショナリズム)。②グランド・オペラの作品や作曲家についての個別研究(オベール《ポルティチのおし娘》、ロッシーニ《ギヨーム・テル》、アレヴィ《ユダヤの女》、マイアーベーア《悪魔ロベール》《ユグノー教徒》《預言者》)。③グランド・オペラと同時代の諸ジャンル等との広範な影響関係についての、作品や作曲家を軸にした研究(モーツァルト、ヴェーバー、ドニゼッティ、ヴァーグナー、ヴェルディ)。④グランド・オペラを構成する諸要素についての研究(歌唱とオーケストラ、スクリーブの台本、舞台美術と演出、タブロー、バレエ)。⑤海外におけるグランド・オペラ受容(日本、オーストラリア)。 これらのテーマについて考察を深める研究会や、各自の論考を読みあう批評会を定期的にオンラインで開催した。それらは問題意識を相互にすりあわせ深めあうことにつながった。その結果、これまでオペラ史でそれほど重視されてこなかったグランド・オペラの影響の一端が明らかになってきた。この成果を本研究の中間報告として、2021年度中に出版書の形で発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度には、まずグランド・オペラの概念規定とオペラ史における位置づけを確認し、その上で代表的な諸作品の分析を行った。オベール《ポルティチのおし娘》、マイアーベーア《悪魔ロベール》については舞台美術・演出と音楽の融合、ロッシーニ《ギヨーム・テル》についてはテノール歌手の発声法に注目しながら研究した。またマイアーベーア《ユグノー教徒》、《預言者》については20世紀の映画を思わせる、斬新な音楽と視覚的効果の関係について分析した。さらにアレヴィ《ユダヤの女》についてはユダヤ系音楽家のフランス社会における立場についても調査した。これらのうち多くの作品の台本を担当した作家スクリーブについても研究し、さまざまなジャンルに跨ったその創作におけるドラマトゥルギーのあり方を明らかにした。 作品分析以外にも様々な視点から研究を深めた。フランス演劇におけるタブロー概念の生成について調査し、その手法がグランド・オペラの視覚的効果に影響を与えていることを示した。またグランド・オペラの重要な構成要素であるバレエについても調査し、そのドラマにおける役割を分析した。さらにオペラ座のバレエを通じたフランスとロシアの間の人的交流や作品伝播についても明らかにした。またオペラ座での《イシスの密儀》(1801)、オデオン座での《森のロバン》の分析を通じ、グランド・オペラの前史についても調査した。 グランド・オペラのグローバルな展開として、イタリアのヴェルディとドニゼッティ、ドイツのワーグナーのオペラ座との関係を調査した。またロシアや植民地オーストリアにおいてグランド・オペラが果たした役割についても検討し、さらに19世紀後半の日本人のグランド・オペラ体験についても調査した。 これらの研究成果は2021年度中に書籍化する予定である。書籍に掲載する年表作成も進め、それに関連して当時の主要劇場の概要や作品情報の整理も行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度行った研究をより深めていくと共に、以下の課題について調査を進めていきたい。 まず作品研究としてはグランド・オペラの主要作品以外の作品についても調査する。アレヴィ《キプロスの女王》のような、主要作品ほどではないにせよ一定の成功を収めた作品に加え、ヴェーバー《オイリアンテ》、《魔弾の射手》や、ドニゼッティ、ヴェルディの作品も含めた、外国で初演された作品のオペラ座版の分析も進める。また同時代のオペラ・コミック作品についても検討し、グランド・オペラ作品との関係性を明らかにしたい。その際、音楽や台本の分析のみならず、作品の演劇的効果、聴覚性と視覚性の統合的効果という観点に注目し、グランド・オペラの特質をより多面的に提示する。また視覚的効果を考えるうえで、バレエの果たした役割についてはより一層調査と研究を深め、グランド・オペラにおけるバレエのバレエ史上の位置づけについても新たな視点を提示したい。 また今年度はあまり研究を進められなかった課題として、社会史的な観点のもと、オペラ座ないしグランド・オペラが担っていたメディア的機能や政治的な役割についても調査する。とりわけ第二帝政期以降、オペラ座の社会的機能やグランド・オペラ作品の性格は大きく変化していったと思われる。今年度集中的に研究したグランド・オペラ生成期の、その後の展開を明らかにする。 グランド・オペラのフランスを超えたグローバルな側面についても様々な観点から更なる研究を進める。グランド・オペラというジャンル自体のイタリア、フランスそしてドイツ・オペラからの統合的な要素について分析する。またグランド・オペラ作品の伝播過程として、フランス語以外の言語による翻訳上演についても、ウィーン、ベルリン、コペンハーゲンなどでの上演を題材に研究していきたい。 こうした研究成果は今後、シンポジウムの開催や新たなる書籍の出版につなげていきたい。
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Causes of Carryover |
研究開始初年度となる本年度は、年間を通じて、新型コロナ感染症の蔓延により、当初予定していた計画の実施が大幅に妨げられる結果となった。とくに海外渡航制限のため、本研究にとって重要性の高い国外での資料調査はまったく実施できなくなった。また同じく、当初予定していたシンポジウムなども実現するにはいたらなかった。そうした不測の事態が、初年度の経費を使い切ることができなかった要因のすべてである。 ただそうした制限を受けながらも、本研究自体は、科研開始以前から行ってきた共同研究の成果の蓄積を踏まえ、また計画を若干軌道修正しながら乗り切ってきた。そして本研究の重要な課題に設定している書籍の出版のための作業も、順調に進展している。 次年度の2021年度は、コロナの終息状況に応じて、先述の諸計画を実施に移し、それらと連動させつつ書籍出版計画の実現もはかるつもりでいる。次年度に繰り越した使用額は、そうした目的のために適切かつ有効に活用したい。
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Research Products
(14 results)
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[Book] 演劇と音楽2020
Author(s)
奥香織、森佳子他編著
Total Pages
295
Publisher
森話社
ISBN
978-4-86405-148-4