2020 Fiscal Year Research-status Report
ヘレニズム後期からローマ帝政初期への転換期における彫刻工房の地域流派の研究
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20K00168
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
芳賀 京子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (80421840)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 地方流派 / ギリシア / ヘレニズム / ローマ / 彫刻 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヘレニズム後期からローマ帝政初期にかけては、ローマが地中海を征服し、属州化し、帝国としての支配を確立していくという政治的・社会的大変動期にあたる。この転換期のなかで、地中海各地の彫刻家の地域流派は、規格化された雛形を受け取りつつも、おのおのが独自の発達を遂げたように思われる。初年度である2020年度は、次年度以降に予定している作品調査のための資料収集を行った。 ただし、2020年5月にミュンヘン大学で行う招待講演にあわせて資料収集する予定が、コロナ・ウィルス感染症の影響でいずれも中止となった。そこで、すでにある程度手元に資料のあるエフェソス(現トルコ)について、有名なアルテミス神殿の本尊である《エフェソスのアルテミス》の大理石コピーと、前4世紀にオリジナルが作られた《垢を掻く人》のブロンズ製コピーに的を絞り、ヘレニズム末期から帝政期にかけてのコピー制作の様相を追った。 《垢を掻く人》については、すでに「古代ギリシアにおける英雄崇拝と造像に関する研究」(基盤研究C、16K02262)の際に競技祭優勝者の英雄化という視点から扱い、3D計測と分析もおこなったが、パーツごとの形状比較など、詳細な分析はしていなかった。そのため今年度は、ヘレニズム末期から帝政初期のエフェソスの彫刻工房の制作技法という観点から、再分析を行った。すると、ローマ時代のコピーという観点よりも、19世紀末のブロンズ像の保存修復技術という点で、新知見を得ることができた。その成果の一部については、2021年5月の美術史学会全国大会のシンポジウムで紹介する予定である。 《エフェソスのアルテミス》については、現在論文を執筆中である。 なお、研究発表(雑誌論文)として挙げたもののうち、雑誌 Amoenitas 8は書誌上の発行年は2019年だが、実際には2020年に刊行された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
海外渡航ができず、入手・閲覧できていない研究論文などが多数ある。しかし、作品調査は2020年度の予定にもともと入れていなかったため、それに関しては遅延はない。すでにある程度資料がそろっている部分については、考察をすすめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
海外渡航がいつ、どの程度可能になるか不明だが、国内で入手可能な研究資料から、できる限りの調査・研究を進めていく。《エフェソスのアルテミス》については論文を出版する。《垢を掻く人》については2021年5月の美術史学会全国大会のシンポジウムをはじめ、積極的に発信していく。ウィーン美術史美術館エフェソス博物館館長のゲオルグ・A・プラットナー博士、クロアチア修復研究所のイスクラ・カルニス・ヴィドヴィチ博士を招待してシンポジウムを開催したいが、できる限り対面で行いたいため、今しばらく様子をみたい。
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Causes of Carryover |
資料収集のためミュンヘンへの渡航を予定していたが、コロナウィルス感染症蔓延のため、実現できなかった。可能になり次第、資料収集目的で渡航する。また調査に必要となるミラーレスカメラについては、やはり同じ機材を使用する別の研究予算に余剰が生じたため、そちらで購入することができた。その代わりに、三脚が劣化しているため、新しいものを購入したい。
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