2021 Fiscal Year Research-status Report
ヘレニズム後期からローマ帝政初期への転換期における彫刻工房の地域流派の研究
Project/Area Number |
20K00168
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
芳賀 京子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (80421840)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | ヘレニズム / ローマ / ギリシア / エフェソス / 彫刻 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヘレニズム後期からローマ帝政初期という政治的・社会的転換期に、地中海各地の芸術諸流派は、中央から伝達される雛形を受け取りつつも、それぞれの独自性を決して失うことはなかった。その諸地域のうち、2021年度にはトルコのエフェソスやアフロディシアスでの海外調査を予定していたが、新型コロナウィルスの影響で実現できなかった。そのため、これまでに収集した資料と過去の調査成果を元に、紀元前1世紀から紀元後1世紀のエフェソスで彫刻のコピー産業が高度に発達していた様を、実際のブロンズおよび大理石のコピー、文献上の記録などから読み取ることを試みた。《アルテミス・エフェシア》という「いにしえの」女神像やその神殿に関しては、この時期に複製が大量につくられていたことが、聖書の記述や実際の出土品から窺われる。紀元前4世紀にオリジナルが制作された《アポクシュオメノス》像は、1世紀にブロンズ製コピーがエフェソスのギュムナシオンに建立されたものだが、クロアチアの海中で新たに見つかったブロンズ製コピーとの比較は、その精度が極めて高かったことを証明している。だがそれ以上に、19世紀末における修復の問題点をも明らかにした。また、すでに英文で執筆した初代皇帝アウグストゥスの肖像に関しては、それにさらに加筆した日本語論文を執筆し、中央からのモデルの伝達と属州都市における「適応」について考察した。 2022年1月から東京国立博物館で開催された「特別展ポンペイ」は、本研究責任者が監修したものであり、紀元前2世紀末から紀元後1世紀というこの転換期が焦点のひとつとなっている。「ファウヌスの家」の出土品や、サモス人ディオスクリデスの署名のあるモザイクといった作品については詳細な展示をおこない、東地中海の芸術家のレベルの高い美術品が、ローマ化する以前のポンペイに、ローマを介さずに直に流入していたようすを提示することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度に続き、2021年度も海外での調査を行うことができず、研究の進捗状況に大幅な遅れが生じている。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度には海外調査を行えると期待される。比較的安全と思われ、医療体制も整っているイタリアやギリシャでの調査を優先して行うことにしたい。
|
Causes of Carryover |
海外調査を一切おこなえなかったため、次年度以降に行うこととし、その費用を繰り越した。
|