2021 Fiscal Year Research-status Report
両大戦間期フランスの芸術生産環境における多面的な女性の関与とその美術史的意義
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20K00169
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
天野 知香 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (20282890)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 女性芸術家 / 両大戦間 / フランス / 20世紀 / モダニズム / サフィック・モダニズム / コロニアリズム / 「他者」表象 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度もコロナの影響で海外調査研究が実施できなかった点は、研究遂行上大きな障害であったが、海外所蔵資料のネット公開や取り寄せのシステムを駆使し、できる限り資料収集を行い、研究を推進した。 その成果に関して特筆すべきは、2021年12月18日にお茶の水女子大学ジェンダー研究所主催のシンポジウム『ジェンダーの視点に基づく美術史研究の現在』を企画し、本研究の成果の一つを「モダニズムと「女性」芸術家ーロメイン・ブルックスのサフィック・モダニティ」として口頭発表したことである。本発表では両大戦間にフランスで活躍したアメリカ人画家ロメイン・ブルックスの1923 年の自画像を通して、既存の表象体系を組み替えることによる、異性愛に限定 されない「女性」芸術家の存在と欲望の可視化のあり方を分析するとともに、その前後の女性肖像を 通したレズビアニズムと女性たちのネットワーク、そしてモダニズムの創造性との関わりに着目する サフィック・モダニズムの可視化について論じた。本発表に関しては、特にこの時代の女性芸術家における多様なセクシュアリティとその表象に目配りすることで、インターセクショナルな視点を導入した点は今日のジェンダーの視点に基づく美術史研究に対する貢献と言え、加えてモダニズムにおける女性芸術家の位置付けをめぐる理論的考察を提示し、20世紀初頭のフランスの言説における女性芸術家への言及に関する調査の一部を紹介することができた。 2022年3月27日にはさらに日仏美術学会主催、国際シンポジウム『日仏美術学会創立40周年記念シンポジウム:フランス美術研究の現在と未来 -日仏学術交流の進展を目指して 』の第2部現代セクションの企画・発表を行い、フランスの20世紀初頭に活躍した女性画家・批評家リュシー ・クスチュリエ について、ジェンダーとポストコロニアリズムの視点から研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度もコロナ下における活動制限のため海外調査が不可能であったという予想してなかった困難な状況にも関わらず、本研究の成果を20世紀前半のフランスを中心に活躍したロメイン・ブルックスとリュシー ・クスチュリエという二人の異なった女性芸術家・批評家に関する研究発表としてそれぞれまとめることができたのは大きな成果といえる。 ロメイン・ブルックスに関しては両大戦間におけるレズビアンを含めた女性芸術家間のネットワークという本研究の重要な部分をなす視点を深めることができ、また女性芸術家のセクシュアリティに関するインターセクショナリティの問題を明確にすることができた。さらにリュシー ・クスチュリエ については、新印象主義に参加した画家であり、批評家であり、かつフランスに駐屯したセネガル兵との交流や自身のアフリカ旅行を通して、モダニズムとジェンダー、およびコロニアリズムが切り結ぶ状況の中でクスチュリエ がどのような選択をし、その結果どのような表象や言説を展開したかを具体的に提示しながら分析することができた。クスチュリエ に関する表象や批評とモダニズムに関するこのような踏み込んだ研究はフランスを含めて現在まで存在せず、本研究はその点でも美術史研究に貢献する実績とみなされうる。 以上のように本研究を通して美術史研究としての充実した成果を上げる一方で、本研究のテーマを個別の画家を通して深めてゆくことによって、ジェンダーとセクシュアリティ、「人種」、階級等々のインターセクショナルな視点の重要性を明確にした点でも当初の予想を超える成果につながり、非常に意義深い進展であったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度に関してはなおコロナ下においてどの程度自由な研究活動が可能かは見極めることが困難な状況であり、その点ではこれまで同様できる限りの方法を模索しながらの研究遂行が続くと予想される。これまでの研究においてやはり海外調査の重要性が改めて実感される一方、国内においても資料収集に関して可能な範囲で展開する手法を積み重ねており、状況に応じて、できる範囲での研究を進める努力を続けてゆく。 特に研究対象に関しては、資料収集などの可能性を鑑みて当初の計画では視野に入れていなかった芸術家たちの研究を実施し、それを通じて意義ある成果が得られたことから、今後も研究計画に資する範囲で研究対象を状況によって臨機応変に絞りながら、研究を展開してゆくことになる。とりわけロメイン・ブルックに関してはより広範な作品分析を通した個別研究へと発展させることを目指して国内での資料収集と検討を推し進める一方、スミソニアン・アメリカン・アート・ミュージアムの調査を、可能になった時点で実現させたい。またパリにおける書簡および補足的な批評調査の実施も可能になった時点で実施することを視野に入れる。加えて調査の可能な範囲で、女性による収集や注文といった観点の研究も展開する。また理論的検討を深めるため、現代における女性芸術家研究や展示の動向にも積極的に触れ、インターセクショナリティやクイア研究の視点も深めてゆく。
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Causes of Carryover |
コロナ下のため予定していた海外調査は一切不可能となったため、旅費、および購入を見送った調査旅行に必要な機材費が大幅に繰り越されることになった。しかし今後海外調査が可能な状況になった場合には、研究年度内にこれまでできなかった海外調査を実施し、また海外調査が可能となることに伴い、それに必要な機材の購入も推し進めてゆく予定である。また書籍購入についても、現在国内で購入できるものに限られていたため使用金額が抑えられていたが、海外で購入が可能になった場合にはこれまで購入できなかった図書や資料の購入を含めて経費使用が行われる予定である。
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Research Products
(3 results)