2022 Fiscal Year Research-status Report
The Individuality in the Collective: Study on Gutai Art Association's 1960-70s focusing on Atsuko Tanaka
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20K00171
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
加藤 瑞穂 大阪大学, 総合学術博物館, 招へい准教授 (70613892)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 具体美術協会 / 1960-70年代 / 個と集団 / 田中敦子 / 山崎つる子 / 堀尾昭子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、関西に生まれた戦後日本を代表する前衛美術グループ・具体美術協会(略称「具体」、1954-1972年)のメンバーが、1960-70年代にグループを離れた個人の活動をいかに展開したか、またその作品はグループの一員として発表した作品といかに異なるかといった、個と集団の関係の解明を目的にしている。その手がかりとして、主要メンバーの一人であった田中敦子(1932-2005年)に着目し、他の女性メンバー二名(山崎つる子 1925-2019年、堀尾昭子 1937年- )とも比較しながら分析することで、「具体」の個と集団の関係に見られる特徴を抽出しようと試みた。 令和4(2022)年度には、山崎、堀尾各人の資料調査を継続した。山崎については、前年度までにおおよそ仕上げた生涯の作品のデータベースおよび活動歴の精査に取り組み、公的機関十一箇所に収蔵されている山崎作品の調査は、残る三箇所のうち二箇所で実施した。堀尾については、令和5(2023)年6月から9月に豊田市美術館にてまとまった点数が展観されることになり、大阪大学総合学術博物館より十六点貸し出すにあたって、作品および関連資料を再調査した。 田中については本研究の成果を生かし、令和4(2022)年2月に大阪大学に提出した博士論文「田中敦子と具体美術協会:金山明および吉原治良との関わりを通して形成されたその作品の考察」の試問を受け、同年11月に学位を授与されると共に、それを元にした単著『田中敦子と具体美術協会:金山明および吉原治良との関わりから読み解く』を令和5(2023)年1月に大阪大学出版会より刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の概要で述べたとおり、山崎作品調査では残る三箇所のうち新潟市立近代美術館と宮城県美術館で実施し、あとは宇都宮美術館のみとなった。そして研究期間内の山崎作品の全調査内容を盛り込んだデータベースと活動歴を整えて、研究代表者が監修を務める山崎の作品集の刊行準備を半分程度終えた。堀尾については、調査協力者の都合により2023(令和5)年度に聞き取り調査を延期したが、その実施時期は確定させた。また上記概要で触れた豊田市美術館での堀尾作品の展観に際して、大阪大学総合学術博物館の所蔵作品・資料を改めて調査・確認すると共に、その成果を元にしたテクストを同館展覧会の印刷物に寄稿する予定となり、その準備を進めている。さらに田中については、本研究で中心となる個と集団の関係性を問う視点から、同じ「具体」メンバーの金山明とリーダーの吉原治良との関わりを通して田中の作品を分析した博士論文を元に、単著『田中敦子と具体美術協会:金山明および吉原治良との関わりから読み解く』を令和5(2023)年1月に大阪大学出版会より刊行した。本書は『神戸新聞』(2023年3月16日)、『週刊読書人』(2023年3月24日)など複数のメディアで取り上げられ、次年度にも別の出版物にて書評掲載が予定されるなど、幸い一定の評価をいただいている。 上記の成果がある一方で、当初予定していたシンポジウムは、新型コロナウイルス感染症をめぐる状況に大きな影響を受け、ニューヨークへの調査およびニューヨーク在住のパネリストとの日程の調整が難しく、最終的に開催を断念した。代わりに研究期間を一年延長して、令和4(2022)年10月に「具体」が主要テーマの単著『戦後日本の抽象美術』を上梓された尾崎信一郎氏と合同で出版関連の催しを企画している。
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Strategy for Future Research Activity |
山崎作品を所蔵する公的機関の調査は、残る一箇所の宇都宮美術館で行い、また昨年度新たに見つかった関係者の手元に保管されていた未見資料の調査も踏まえ、年譜や文献目録などを完成させて山崎の作品集を刊行する。堀尾については、昨年度実施できなかった、堀尾の活動場所について詳しい作家一名に一回、その内容を受けて堀尾自身に一回、それぞれ聞き取り調査を行い、堀尾に関する年譜の精度を高める。また上記で述べた豊田市美術館での堀尾作品の展観の際に、展覧会担当者との意見交換を行い、研究代表者の視点を相対化する機会としたい。そして田中については、当初予定していたシンポジウムの代わりに、尾崎信一郎氏と研究代表者・加藤の各著書刊行をふまえた合同出版記念会にて、本研究の成果を発表する。 この催しでは、尾崎氏と加藤がそれぞれ著作の出版意図や目的を話した上で、対談形式でこれまでの「具体」研究の経緯を振り返り、まだ光が当てられていない部分や掘り下げられていない部分、特に個と集団の関係をいかに捉えるかという本研究におけるテーマについて、尾崎氏の巨視的な観点と加藤の微視的な観点から考察を深める。開催に際しては広く参加者を募り、対談後に質疑応答の時間を設けて幅広い議論の場になるよう努めたい。なお開催は秋を目指し、場所は大阪大学中之島芸術センターを予定している。
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Causes of Carryover |
残額が生じた最も大きな要因は、旅費および人件費の減少である。具体的には、第一に新型コロナウイルス感染症拡大の影響で海外への渡航が制限され、調査を予定していたニューヨークへ赴けなかったこと、第二にシンポジウムの開催を断念したことにより、パネリストの旅費・謝金が生じなかったこと、第三に資料整理の協力者であった学生の就職により人件費が生じなかったことが要因として挙げられる。 令和5(2023)年度は研究期間の最終年度として、成果発表の場となる出版記念会を確実に開催し、本研究の総括としたい。
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Research Products
(2 results)