2023 Fiscal Year Research-status Report
浮世絵から照射する日本近代美術~日本近代美術再考~
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20K00173
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
菅原 真弓 大阪公立大学, 大学院文学研究科, 教授 (10449556)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
神内 有理 京都芸術大学, 芸術学部, 非常勤講師 (60751906)
高浜 快斗 山形県立米沢女子短期大学, その他部局等, 講師 (20869523)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 日本近代美術 / 浮世絵受容 / ジャポニスム / 浮世絵研究 / 日本美術史 / 浮世絵の「評価」 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究テーマに即した著書2冊(単著一冊、共著一冊)を刊行することが出来た。一つは単著『明治浮世絵師列伝』(中央公論美術出版)である。その最終章「結語 明治の浮世絵と浮世絵研究」の中で、明治の浮世絵に関する低評価について述べた後、浮世絵研究の特異なあり方やその中での「浮世絵版画」の位置づけ(国内外での評価の齟齬)についてまとめた。ジャポニスムを背景とした西洋における浮世絵評価は、主に「版画」を対象としてなされていたが、その高評価に対するいわば反動のような体で、日本における浮世絵評価がなされたことを文献や事象から明らかにした。それは当時の日本における肉筆画重視という強い方針である。たとえば日本で最初に編まれた「日本美術史」である『稿本日本帝国美術略史』(1901)や『浮世絵派画集』(全5冊、1906-08)における、肉筆浮世絵重視のスタンスに如実にあらわれている。また1910年に開催された日英博覧会に出品された浮世絵は180点にも及ぶが(出展総数は351点)、それは全て肉筆浮世絵であった。この事実について先行研究は日本政府の企図を読み解く。私はここに日本政府による「公式」な浮世絵観と、国際的な評価(=西洋のジャポニストによる浮世絵観)には大きな隔たり、齟齬があることを挙げ、さらにその狭間で発生するのが、日本の、いわゆる「民間」の浮世絵研究(主に浮世絵版画を対象とする)だったことを示した。 もう一つは共著『明治維新と文明開化』(思文閣出版)である。この中の一章「第4章 戦争報道メディアとしての錦絵」を担当し、西南戦争時に数多く刊行された「西南戦争錦絵」のメディアとしての側面や、その評価についてまとめた。 また論文「吉沢コレクション『やまと新聞』付録について」(『文化資源学ジャーナル』3号、大阪公立大学文化資源学会)を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに研究を進めてきた、近代における浮世絵受容のあり方としての「浮世絵研究」の特質を、単著の一章においてまとめることができた。まとめるにあたっては、浮世絵の評価の国内外でのズレ(齟齬)を強く意識した。ジャポニスム研究の中で扱われる浮世絵「評価」と国内での浮世絵「評価」(特に、肉筆浮世絵と浮世絵版画との差異)の比較を行うことで、これまでに明らかになってこなかった一面を読み解くことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2024年度は、主に、これまで検討してきた日本近代美術史における浮世絵受容(実作品の中に見られる浮世絵学習)について論文および著作としてまとめることとする。また、国内における浮世絵研究の推移について、2023年度に収集した文献(浮世絵研究雑誌)の詳細な検討から明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
研究分担者一名の研究が進められなかったことが大きな原因である。美術館学芸員職についているため、展覧会業務等に多忙であったこと、そしてそのために研究会の開催ができなかったことがある。
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Research Products
(15 results)