2021 Fiscal Year Research-status Report
近代皇室の総合的西欧化過程研究―美術工芸品と文書史料双方向からのアプローチ―
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20K00175
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
長佐古 美奈子 学習院大学, 付置研究所, 学芸員 (20537279)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 皇室 / 皇后 / 西欧化 / 香川敬三 / 香川志保子 / 宮中晩餐会 / 洋装 / 工芸 |
Outline of Annual Research Achievements |
明治維新後、西欧化を余儀なくされた皇室では、明治6年(1873)に天皇が洋装化し、饗応のために西洋料理を取り入れ、洋装、舞踏、洋楽、ふるまいなどが国際的な接遇のレベルに達したことを示す場としての宮中晩餐会を成立させてきた。宮中晩餐会に集約される皇室の近代化の様式は、皇族・華族等の皇室周辺に伝播し、それが市民階級へ影響を及ぼし、明治以降の西洋文化を受容した日本独自の文化構築に繋がったと考えられる。しかし、この皇室の西欧化のために、物質や文化を実際にした人物・経緯は未だ不明なままである。 本課題では皇室の西欧化の一翼を担うキーパーソンとして香川敬三・志保子父娘に着目した。香川敬三は皇后宮大夫として、また香川志保子は英国留学の後に皇后の御用掛となった。このように香川父娘は明治期の皇室、特に皇后に極めて近いところにおり、皇室、特に皇后の総合的な西欧化に多大な影響があったのではないかと推測される。 この香川敬三・志保子関係史料2万4000点余点は平成30年(2018)に学習院大学に収蔵された。令和3年度は、2年度に引き続き研究協力者上野秀治により作成された香川家史料の手書きの仮リストが公開・検索出来るようにするために、リストのデジタルデータベース化を行った。また史料の保全を図るために、中性紙封筒への入れ替え・薄葉紙による保護も一部行った。 また研究会を開催し、香川志保子の渡欧時代の日記の解読を行った。また皇學館大學所蔵の香川家史料の全点撮影も行った。さらに旧宮家の調査により新たに発見された皇后の洋装写真の考察を行った。その成果は長佐古美奈子「宮中晩餐会の歴史的考察 その(3)―大婚25年記念祝典・皇后の活躍―」、石井裕・梅田優歩「香川志保子の小松宮欧州巡行同行について」として公表した。また、各所で開催された展覧会図録誌上において、皇后の洋装化、皇室工芸品の役割について発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、令和3年度には香川敬三が岩倉使節団と共に訪れ、また香川志保子の留学先であったイギリスで調査研究予定であったが、新型コロナウイルス感染症感染拡大のため、調査は不可能となった。 一方、国内での調査は可能となり、皇學館大學、宮内庁宮内公文書館などでの史料調査を積極的に行った。また個人宅でも史料調査を行い、今まで周知されていない皇后洋装写真や宮妃ドレスなどを発見した。また香川敬三・志保子関係史料の手書き史料リストのエクセル入力によるデータベース化の作業は順調に進み、現在約10,000点の入力が終了している。 研究協力者である石井裕、梅田優歩との研究会も開催し、それぞれ成果を公表した。また各所で開催された展覧会図録、新聞などにおいて、皇后の洋装化についての小論や、コメントを公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、香川敬三・志保子父娘の史料2万4000点余の目録のデジタルデータベース化し、WEB上で公開し、利用の便を広げることを目指し、入力作業を終了させる予定である。しかし、入力作業が終了しても原史料と照合する作業があるため、当初予定の洋装等皇室工芸品関係部分のうちどの部分を公開するかを勘案し、来年度以降の公開準備を進めたい。 当初昨年度に予定していた岩倉使節団と共に香川敬三が訪れ、香川志保子が留学していたイギリスにおいて、二人の足跡と皇室工芸品の淵源を辿るための調査も、状況を鑑みながら今年度もしくは来年度以降に実施できるよう準備を行う。 引き続き、各所において史料調査を行い、新たな皇室西欧化を示唆する工芸品、画像、史料などの発見に努める。研究会を開催し、香川家史料及び新たな史料より明治皇室、特に皇后の西欧化の足跡とその関連人物を明らかにし、公表する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症拡大のために、当初予定していた岩倉使節団と共に香川敬三が訪れ、香川志保子が留学していたイギリスにおいて、二人の足跡と皇室工芸品の淵源を辿るための調査が実施できなかったために、次年度使用額が生じた。 状況を鑑みながら今年度もしくは来年度以降に実施できるよう準備を行う。
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