2021 Fiscal Year Research-status Report
中近世移行期の絵巻からみる物語表現の再検討―狩野派を起点として
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20K00188
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
土谷 真紀 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (80757451)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 狩野派 / 絵巻 / 武蔵坊縁起絵巻 / 狩野元信 / 土佐派 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、コロナウィルスの影響で引き続き海外渡航による調査が叶わず、デジタル画像の資料や入手できる関連資料の分析を主に行った。調査済みであるチェスター・ビーティー・ライブラリー所蔵の「武蔵坊縁起絵巻」とハーバード大学フォッグ美術館所蔵「武蔵坊縁起絵巻」残欠について、内容構成の復原を試み、当初の巻構成について把握することに努めた。分析を通じて、作品をめぐる基礎的な事項を以下の通り抽出した。 人物表現、とくに男性表現は狩野派絵巻に見られるものを踏まえた描写のものが散見され、面貌のみならず、ポーズといった部分も準ずるものが認められた。ただし、狩野派的な要素と広義の意味でのやまと絵の表現を踏まえたものが混在する。建築表現についてはゆがみが見られるなど、定規引きのそれとは距離がある。奥行きを志向する表現はほとんど見られない。樹木や岩の表現は、狩野派的(漢画的)な要素が看取される。 また、三巻から成る「武蔵坊縁起絵巻」は、その画風から上巻と中・下巻で画風が異なっており、複数絵師の手になることも分析において明らかとなった。 上記を踏まえると、「武蔵坊縁起絵巻」の画風は狩野派絵巻の要素を様々に抱え込んでいるといえる。これにより、狩野派絵巻の影響が流派内に限定された狭い範囲のものではなく、いわば「町絵師」に連なる絵巻制作者へと少しずつ画風が浸透していることが推定されよう。このことは、狩野派絵巻の特徴が、絵巻の画面を成立させるひとつの系譜(絵巻を作る際の典型的な作風)として存在していたことを示す。 17世紀初頭頃の絵巻においては、従来絵巻作家として支持されていた「土佐派」による絵巻の画風のみならず、狩野派絵巻の画風や表現志向についても受容される状況であったことを裏付ける。今後は狩野派絵巻の受容という状況が、各作例の置かれた社会的文脈においてどのような意味を持つのかさらに検討する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
コロナによる渡航制限が続いていたため、海外の所蔵先での調査が一切できなかったため。 また国内の調査についても制限したため、作品の実見が進んでいない状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
研究開始以前に予定していた、海外における作品調査が進まない現状を鑑み、国内における関連作品の掘り起こし、見直しをすすめている。見直しにより、海外の機関に所蔵される作品同様、国内の諸機関にも、美術史領域ではほとんど扱われることのない絵巻作例のなかに、狩野派絵巻の特質を持つ作例が改めて確認された。これらについても少しずつ調査のための準備を進めている。
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Causes of Carryover |
海外渡航が叶わず、旅費として使用することができなかったため。次年度以降は、国際的な感染状況を注視しながら、海外への渡航費用、必要に応じて、国内での調査旅費として使用する。
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