2020 Fiscal Year Research-status Report
テル・ボルフの父からの訓戒と17世紀後半のオランダ風俗画家たち
Project/Area Number |
20K00194
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Research Institution | Mejiro University |
Principal Investigator |
小林 頼子 目白大学, メディア学部, 客員研究員 (10337636)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 17世紀オランダ風俗画 / 現代の人物画 / ヘーラルト・テル・ボルフ / 模倣 / 借用 / 相互参照 |
Outline of Annual Research Achievements |
予定していたヘーラルト・テル・ボルフ(父)が、1635年に、ロンドン滞在中の同名の風俗画家の息子に宛てた手紙――本研究の出発点となる重要な一次史料で、パリのルフト・コレクション所蔵――の閲覧は、年度を通じてのコロナによる海外渡航禁止のため、かなわなかった。したがって、既刊の文献の調査を中心にして、以下の研究を進めた。①ヘーラルト・テル・ボルフ(息子)を中心に、17世紀オランダ風俗画の評価の変遷とその背景を探った。また、各風俗画家相互の構図・モティーフの模倣・借用関係を、往時の美術理論からひもとくべく努めた。発表成果は以下のとおり。 ・論文:「十七世紀オランダ風俗画家ヘリット・ダウと揺れ動く評価軸」、『明治学院大 学言語文化研究所紀要 言語文化』、38号(2021年3月)、73-88 頁 ・口頭発表:「'Een ongelijke gelijckheyt'―17世紀オランダ風俗画家たちの市場戦略」、於『歴史の中の美術――大原まゆみ先生の最終講義に向けての小講演集』(リモート・カンフェランス)、2021年3月21日 ②年度内の成果発表には至らなかったが、17世紀オランダ風俗画家の「現代の人物画」制作における相互参照関係を上記の口頭発表に言及できなかった部分を含め、作品に沿って詳細に検討した。また、17世紀、18世紀初めの文献学者・古代研究家のフランシスクス・ユニウス(オランダ語版1641年)、画家・美術理論家のフィリップス・アンゲル(1642年)、画家・美術理論家のサミュエル・ファン・ホーホストラーテン(1678年)、画家・美術理論家のヘーラルト・デ・ライレッセ(1707年)がそれぞれの美術理論書で展開した風俗画論、模倣論についても、相互に比較しながら分析・考察を重ねた。この部分はすでに執筆は終了し、現在刊行作業を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
進捗状況を「おおむね」とした理由は以下のとおり。 ①新型コロナウイルス感染症対策で、2020年度に海外渡航が全面的に禁止され、最も重要な初動の調査が手つかずのまま終わった。 ②同じ理由で、印刷刊行されていない史料の海外における調査が未実施となった。 ③同じ理由で、海外の美術館委所蔵される17世紀オランダ風俗画の熟覧・所蔵美術館保管史料調査も未実施に終わった。 ④一方で、①~③の部分を除けば、国内で進められる研究はおおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究者が本科学研究費研究課題を推進する上での一次資料は、ほとんどが海外の美術館・図書館、研究機関に所蔵・収蔵されている。周知のように、感染症蔓延のため、2020年度、そしておそらく2021年度も、海外調査には出られないものと予想される。このため、国内でできる作業に集中し、研究を進めるべく、いささかの方向転換をする心づもりである。 ①具体的には、デジタル化された各種史料、各種古文献、画像資料を最大限に活用し、ヘーラルト・テル・ボルフの画業全体を俯瞰すべく努める。 ②その俯瞰結果に基づいて、テル・ボルフが父の「モダンであれ」という助言をいかに理解したか、その理解は、年を追うごとにいかに変化したのか、しなかったのか、を検討する。 ③テル・ボルフ以外の17世紀風俗画家は、「現代の人物画」としての風俗画にいかに向かい合い、テル・ボルフの方向性を受容したかを、これもまたデジタル化された資料を活用し、検討する。 ④国内外の他の研究者とのリモートによる交流を図り、意見交換の機会を増やし、現状の閉塞状態の中で最大限の研究成果を上げるべく努める。
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Causes of Carryover |
2020年度使用額のうち、5分の2近くを海外調査旅費に予定していたため、多めの2021年度使用額が生じた。 2021年度には、この繰り越しされる旅費予定分と2021年度使用額中の予定旅費分とを合わせ、少し長期の海外調査を実施し、2020年度の未実施分を補完する予定。
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Research Products
(2 results)