2021 Fiscal Year Research-status Report
パリからニューヨークの表象へ アメリカにおける新印象派の受容と展開
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20K00197
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
坂上 桂子 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90386566)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ニューヨーク / パリ / 印象派 / 都市 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、19世紀後半パリではじまった近代都市の表象が20世紀に入りアメリカでいかに展開されたかを考察することにある。昨年度から引き続き、「フランス美術からの吸収」を経て、それらが「ニューヨークの都市表象」において独自に展開されていく問題を大きな視点として、個別の作品や画家についての検討を進めた。 今年度はとくに、ウィリアム・グラッケンズ(William Glackens 1870-1938)を対象とした。グラッケンズの作品には、印象派・ポスト印象派の要素が反映されており、この時代の画家たちの関心を集約的に見出すことができる。グラッケンズは1895年パリに渡り、モンパルナスのアトリエで1年を過ごしたのち、ニューヨークに活動の拠点を置いている。当初の作品にはマネの影響が強く、黒を多用しつつ、都市とそこに生きる人々の姿を捉えている。だが次第に、印象派風の明るい色調を導入、同時にセザンヌや新印象派の点描も取り入れ、ルノワールの人物描写からさらには、ナビ派のドニやマティス等フォーヴイスム的な色彩までも感じさせる作風を展開する。パリで描いた《リュクサンブール公園》(1906)、《カフェ・ド・ラ・ペ》(1906)などのパリ風景は、アメリカでは《イタロ・アメリカン・セレブレーション、ワシントン・スクエア》(1912)や《ローラースケートをする少女たち、ワシントン・スクエア》(1912-14)、《カフェ・ラファイエット》(1914)、《ソーダ・ファウンテン》(1935)と、ニューヨークへの風景へと置きかわり、独自の都市風景を確立していく。その過程は、まさに、アメリカ美術における印象主義の吸収と展開を集約して見出せるものと考えられる。グラッケンズと同時に、関連するジョン・スローン、モーリス・プレンダーガスト、レオン・クロールのニューヨークを表象する作例についても考察・分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
対象となるアーティストが数多くいるなか、昨年度はフレデリック・チャイルド・ハッサム(Frederick Childe Hassam (1859-1935)を中心に、今年度はグラッケンズを対象に考察を行った。とくにグラッケンズは、印象派からポスト印象派、さらにはフォーヴィズムといった同時代のフランス美術の動向を反映したさまざまな作品を数多く制作しており、フランス美術のアメリカでの受容について興味深い関連性を見出すことができたと考えられ、その意味で、本研究にとっては大きなことだった。ただし、成果発表とするところまではいまだまとめられていないので、今後、順次まとめていく予定にある。また、モーリス・プレンダーガスト(Maurice Prendergast 1858 -1924) レオン・クロール(Leon Kroll 1884-1974)、マックス・ウェーバー(Max Weber 1881-1961)等については、昨年来、研究対象として挙げ、少しずつ資料を見ているところではあるものの、これらについてより踏み込んだ考察をするところまではなかなか至らなかった。 他方、この時代から転じて、ニューヨークの表象に関し、オキーフやラウシェンバーグ等その後も多くのアーティストたちの作例も見出せるため、時代を限定することなく、考察対象を広げ考察を試みた。とくにニューヨークを拠点に活動した日本人アーティスト木村利三郎の作品には、同時代のアメリカ美術の動向が反映されており、20世紀初期のニューヨークの画家たちの作例からの展開を見出すことも可能であることがわかったのは、新たな成果であったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
この2年間コロナ禍にあって十分な海外調査ができなかったこと、および、研究の途中で発見した問題を加味して、本課題の研究をより有効なものとして推進するために、研究の方法について全体の計画自体を見直すことにする。まず、研究対象を20世紀初期のニューヨークの画家たちに絞るのではなく、その対象範囲を広げることとする。当初予定した計画よりも対象を拡大するにあたり、代表者一人で研究を進めるだけでなく、研究協力者に課題の分担を依頼する。こうしてより広い視野のなかで「パリの表象」と「ニューヨークの表象」を見出し、比較検討するなかでそれを繋ぐ流れを見据え、都市の表象がどう変遷し変容していったのかを検討していく。研究協力者については、パリ、あるいはニューヨークに関する課題をそれぞれ担当してもらうこととし、パリの都市表象については、19世紀後半の印象派やナビ派の研究者、および20世紀初期のエコール・ド・パリに関する研究者に、それぞれ研究を依頼する。②ニューヨークの都市表象については、20世紀初期から後半にかけて広くニューヨークの都市表象とその展開を対象とし、オキーフや現代アートも含め、専門性から都市の表象について研究を進めてもらう。 一方、研究代表者はこれまで資料収集、整理、検討を行ってきた対象について、引き続き研究を進めると同時に、論文を執筆することで、最終年の研究の全体のまとめとする。 研究協力者がそれぞれ担う研究については、研究会を開催することで情報を交換し、全体の流れを各研究者が意識することで進めていく。これにより印象派・新印象派からはじまった近代都市の表象について、パリからニューヨークへどのように引き継がれ、新たな芸術が生み出されていったのか、その流れ、影響、独自性、展開などについて明らかにしていく予定である。なお、これらをまとめて最終的には論集として出版社からの出版を行う。
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Causes of Carryover |
コロナ禍にあって海外調査のための費用が未使用となったことが理由である。この費用については、研究協力者とともに、研究成果の出版にあてる計画である。 執筆陣には、研究協力者である桝田倫広、玉井貴子、森万由子、誉田あゆみ、慎ディア、由良茉委の各氏を予定している。
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