2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K00215
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
清水 香 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 准教授 (30599436)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 泥漿 / 成形技法 / EPMA |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、泥漿を用いた現代的成形技法における諸問題を明らかにし、土という素材の性質を再度捉えなおして解決策を考察した。本研究では、成形・焼成時に起きる3つの問題点を挙げることができる。一つ目は空隙が生じることによる破裂である。二つ目に土の締めによる亀裂であり、三つ目は焼成によりおこる造形物の歪みである。これらの問題を解決する方法として、電子顕微鏡を用いた実験を行った。電子顕微鏡である電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いることによって、肉眼では確認できない土の内部の状態を観察することができ、成形方法の違いによって素材に含まれる空隙等がどう異なるのか分析することができた。そのなかで、タタラ成形による成形物と泥漿を用いた新たな成形技法による成形物の素焼き素地の内部に違いがあることが明らかになった。タタラ成形では土を叩く「締め」という工程があることがから、気泡の数は多くみられるものの、気泡の大きさが焼成に影響が出ない小さなものであった。それに対し、泥漿を用いた新たな成形技法による成形物には、直径3.5㎜の大きな気泡が存在していた。本実験において、泥漿の素地には表面付近に気泡が見られないことから、流動性がある泥漿の表面から気泡が外部に抜け出して滑らかな素地になる代わりに、内部にあった気泡は表面から抜け出す前に集積して、より大きな気泡が内部に形成されたと結論付けた。 また、焼成時のゆがみについて、泥漿を用いた新たな技法によって成形した造形物の素地の厚みを計測したところ、20㎜近くの厚みのバラつきがあることがわかった。このことから、焼成時の素地が熔融する際に薄い部分が耐えきれなくなっていることが考えられる。 今後は、亀裂や歪みを抑えるため、焼成による素地の熔融を抑えた素地作りと流動性をもたせるための解膠剤の添加量や水分量の実験を進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、滋賀県や長崎県など陶磁器産地へ赴き、陶磁器原料の収集を行う予定であった。しかし、新型コロナウィルスの感染が拡大したことにより、県外移動を自粛せざるを得ない状況であった。そのため、本年度に行う予定であった調査へ行くことができておらず、調査で収集した原料を元にした実験も行えていない。 しかし、文献等から磁器土の原料は地域で産出される原料をもとにしていることは分かっており、原料の調合など今後検討すべき視点は得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は新型コロナウィルスの感染が拡大したことにより、居住地域(鹿児島県)内で行うことができる調査や実験を中心に行った。今後は、新型コロナウィルスの感染状況を見極めながら、滋賀県や長崎県への移動が可能であれば現地調査を行う。状況悪化により移動を自粛しなければならない場合は、遠隔地における資料調査をどのように進めるべきか検討し、オンラインやWebを通した情報収集なども視野に入れていく。 現地調査の方法は、以下の2点を考えている。1点目は、陶器産地と磁器産地それぞれにおいて用いられている成形技法を、資料館や試験場、作家工房の訪問により調査する。なかでも、伝統的に受け継がれてきた技法と、量産を求めた工業的技法の2つの面から、その役割と方法、適した材料についても調査する。その際、課題を多く抱えている産地の現状も聞き取り調査する。2点目は、可塑性をもつ流動体を可能にする原料の調査である。色味や粒度、耐火度、金属酸化物等の含有量を中心に土の選定を行い、組成分析による数値化し比較する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染が拡大したことにより、県外移動を自粛せざるを得ない状況であり、陶磁器産地への調査へ行くことができなかったためである。次年度使用額は、これまで行くことのできなかった滋賀県と長崎県への調査費用に充てる予定である。
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