2021 Fiscal Year Research-status Report
ペダルを離す指示の位置に注目したピリオド楽器によるショパンのペダル法研究
Project/Area Number |
20K00231
|
Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
山名 仁 和歌山大学, 教育学部, 教授 (00314550)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
筒井 はる香 同志社女子大学, 学芸学部, 准教授 (20755342)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ショパン / アスタリスク / アーティキュレーション / シンコペート・ペダル / ダンパー / 通奏低音 / ウィーン式フォルテピアノ / モダンピアノ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はショパンのペダルの指示の中でも最も軽視されていると考えられるアスタリスクの位置について、ローゼンベルガー製フォルテピアノ(1820年頃)とモダンピアノによって研究した。ショパンのアスタリスクの位置は、今日一般的なシンコペート・ペダル法とは全く異なっている。研究の結果、連続してペダルを踏む場合、あるいは次にペダルを踏む指示がアスタリスクから離れている場合の双方において、アスタリスクの位置は、「①その箇所で瞬時にペダルによる響きを無くすことが意図されている訳では無く、あくまでもペダルを上げ始める指示にすぎない。②どの程度まで響きの細り方を引き伸ばしながら次のペダルの指示へと繋げるかについては、その箇所の情緒と関連している。当然長い場合も短い場合もある。」との2つの仮説を得た。 ショパンのペダル法には、特に指示が連続している場合において、和声の変化に関わるバスの音が直前の音からアーティキュレートされるという特性がある。これは通奏低音の発想に繋がるものであり、ショパンがJ.S.バッハに傾倒していたこととも通底することとなる。バスの変化に対応したテンポルバートは旋律線主体のテンポルバートとは明確に異なってくる。チェンバロによるJ.S.バッハの演奏とモダンピアノによるJ.S.バッハの演奏とを比較すればそれは明白であろう。ショパンのペダル法はチェンバロにおけるテンポルバートが、ショパンの演奏にも敷衍させることが可能であることを示唆していると言える。 ショパンのペダル法は一方で旋律線における指の高度なレガート奏法を要求している。その限界を超えた際の旋律線の断絶は、ローゼンベルガー製フォルテピアノにおいて小さく、モダンピアノにおいて大きい。モダンピアノのダンパーが、ペダルによって増幅された弦の振動を瞬時に止める性能を持っていることによることも、今回の研究から明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルスの感染状況に対応して、海外の楽器調査および国内の楽器調査を控えている。このため上記仮説をショパンが生きていた時代に製作された、さまざまな年代のプレイエルによって検証する機会を得られていないことに大きな要因がある。また研究者本人がベルギーから研究目的で輸入予定の1841年製プレイエルも、様々な事情により予定よりも輸入が遅れている状況である。さらに付け加えると研究者本人にはリューマチの基礎疾患があり、免疫機能を下げて生活をしているため、1845年製、1846年製のプレイエルを所蔵している極親しい友人への訪問も控えざるを得ないことも研究の進み具合に大きく影響している。コロナ禍が収まった暁には是非上記仮説の複数台による検証を実施したいと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
まず令和4年度中に手に入れることが可能な1841年製のプレイエルの修復状況をチェックする。チェック項目は、①ハンマーヘッドのフェルトの製法と材質がこのプレイエルピアノのオリジナルの音色を損なっていないか(モダンピアノのような音色とはなっていないか)、②ダンパーも同様にモダンピアノと同等の止音効果が得られるようにと無理な調整が行われていないかどうか、以上2点である。1841年当時のフェルトについては、解明されていない点が多数あることから、全てがオリジナル同様の仕上がりとなることは望めない。従って現時点での適正な修復であるか否かの判断となる。調整が必要となった場合には、プレイエルの修復に通じている国内の修復家に相談し、本研究者が以前の科研調査でフランスおよびオランダの修復家を尋ねた際に得た知見と照らし合わせ、妥当と思われる調整を行う。 次に楽器の調整がすみ次第、上記仮説がパリ時代の作品にも敷衍させることができるのかどうかについて、本プレイエルにて演奏研究を行う。 同時にワルシャワ時代に出版されているピアノトリオOp.8までは、ローゼンベルガー製ウィーン式フォルテピアノ(1820年頃)によってペダル法の研究を行い、パリ時代の作品としてはこのプレイエルの製造年の1841年に近いOp.28プレリュード以降の作品を対象としてペダル法の研究を行い、①アスタリスクの位置からペダルを外していく演奏効果の違い、②ペダル法がワルシャワ時代とパリ時代とでは変化したか、③革のハンマーヘッドとフェルトのハンマーヘッドの音色の違いが生む演奏法の違い、④両時代の作品を比較した場合、アーティキュレーション法に変化がみられるが、これは楽器の特性と関係があるのか否か、といった点について研究する予定である。 なお演奏研究の成果発表は、インターネットを通しての録画配信によって行う予定である。
|
Causes of Carryover |
予定していた国内外での実地調査が出来なかったため、旅費として計上していた金額を消化することができなかった。翌年度分として請求した助成金と合わせて、コロナ禍が収まった後にはこの実地調査を実施し、研究成果の発表方法として、インターネットによる録画配信をするための録画に関する機材を購入する。
|