2020 Fiscal Year Research-status Report
バレエ音楽の特殊性に配慮したアーカイブのモデル構築
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20K00237
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Research Institution | Japan Women's College of Physical Education |
Principal Investigator |
森 立子 日本女子体育大学, 体育学部, 教授 (40710843)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | バレエ音楽 / アーカイブ / ドン・キホーテ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「バレエ音楽のアーカイブ化に関する基礎的研究」(2017年度~2019年度科学研究費研究課題/領域番号17K02380)の発展課題として構想されており、研究初年度にあたる2020年度は、これまでに入手が完了している楽譜資料の検討を通じた問題点の再抽出・整理を進めた。特に、今日「主要レパートリー」に数えられるような作品の場合、上演の機会ごとに音楽に様々な改変が加えられるため、ヴァージョン間の異同の問題が複雑化する傾向がある。その問題の一端を具体例に沿って示すべく、《ドン・キホーテ》(作曲:ミンクス、シモン、ドリゴ、ゲルバー、プーニ、ナプラヴニック)を対象として異なるヴァージョンの比較検討を行った。なおこの作業の主目的は、異なるヴァージョン間で異同が生じる様を具体的な形で分かりやすく示すことにあったため、検討の対象とするヴァージョンは、楽譜の入手が比較的容易で、かつその来歴が明らかになっている二種に限定した。すなわち、1871年にサンクトペテルブルクにて上演されたプティパ第2版に基づく5幕ヴァージョン(1882年頃出版)と、1942年のザハロフ=ゴレイゾフスキー版に基づく3幕ヴァージョン(1982年出版)の二種である。比較の結果は、各曲のインチピットを含んだ一覧表にまとめ、『日本女子体育大学 大学総合研究』(第4巻、2021年3月)に「資料」として掲載している。今回比較した二つのヴァージョンはいずれもピアノリダクション譜であり、検討の結果においては必然的に1.曲順の変更、2.曲の挿入、という問題がクローズアップされることとなったが、今後さらに、オーケストレーションの変更、音楽の改変と作品のストーリー展開との関係など、別の視点からの分析を行う必要があると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、関連領域の研究者・専門家との意見交換、共同作業を交えて進められる予定であった。しかしながら、本年度はコロナ禍の影響により、対面によるイヴェントの開催などがすべて不可能となり、研究代表者が2018年から主催している「バレエ史研究会」も、本年度中の開催を断念せざるを得ない状況となった。これに伴い「バレエ音楽データベース」試作の作業も現時点では中断を余儀なくされており、「バレエ史研究会ホームページ」の内容更新も難しくなっている。そのため研究の進捗状況は、全体としては当初の予定よりもやや遅れたものとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はコロナ禍の状況に鑑み、これまでに収集した資料の整理・検討に大きな比重を置いて作業を進めたために新たな資料の所蔵調査や収集が進まなかったが、次年度以降はこれを重点化して進める予定である。なお、収集している資料の中には、日本でほとんど知られていない作品も少なからず含まれており、これらについての情報をホームページ等で広く社会に伝える必要性を感じている。これは当初の研究予定に含まれていなかった作業ではあるが、研究成果の社会還元の一環として次年度より着手していきたいと考えている。一方、異なるヴァージョンの比較・分析作業は、本研究課題の一つの根幹をなす作業でもあるため、引き続き進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
今年度はコロナ禍の影響で外部の専門家、研究者との共同作業(研究会を含む)を進めることが出来なかったため、これに関わる支出がほぼゼロの状況となった。また、特に海外からの資料の入手が難しい時期が続いたため、資料収集も予定どおり進めることが出来なかった。そのためこれらの予算が次年度に送られることになったが、次年度は社会的状況の回復を待ちつつ、可能な限り上記の作業を加速化して進めたい。また、ウェブ上での情報発信の重要性が増していることから、専門の人材にも協力をあおいでホームページの充実を図りたいと考えている。
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