2022 Fiscal Year Research-status Report
バレエ音楽の特殊性に配慮したアーカイブのモデル構築
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20K00237
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Research Institution | Japan Women's College of Physical Education |
Principal Investigator |
森 立子 日本女子体育大学, 体育学部, 教授 (40710843)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | バレエ音楽 / アーカイブ |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までの調査・研究により、「バレエ音楽アーカイブ」構築の前提条件として、「バレエ音楽」の定義に関するより精緻な議論を行う必要性が明らかになった。このことを念頭に置きつつ、本年度は、近代バレエの出発点である18世紀後半のバレエ音楽を主たる考察対象として研究を進めた。 まず、この時代における「バレエ音楽」の概念を探るべく、理論的側面からの調査を行った。この時代には、いわゆる「バレエ改革」の動きの中で重要な舞踊理論が複数発表されており、これらの中にも音楽に関する記述が含まれている。こういった記述の抽出・検討を進めた結果、オペラとバレエに関する概念のずれの問題(今日ではオペラと見なされる作品が、当時はバレエと呼ばれている等)が存在し、それが本研究において考慮すべき重要なファクターの一つとなっていることが確認された。なお、この検討作業によって得られた成果の一部は、2022年12月に開催された「グルック・シンポジウム オペラ《オルフェーオとエウリディーチェ》とその周辺」での口頭発表(「18世紀のバレエ改革とグルック」)にも反映されている。また、バレエ改革期の最も重要な舞踊理論書であり、上記の作業でも主たる検討対象となっているジャン=ジョルジュ・ノヴェールの『舞踊とバレエについての手紙』については、初版の全訳およびその解説を完成し、これを単著として出版した(道和書院、2022年11月)。 一方、この時代のバレエ音楽の実態調査としては、RISMおよび各地の図書館の検索システム等を利用しながら、作品の情報を整理する作業を継続的に進めている。また前年度に引き続き、19世紀以降のバレエ音楽の出版譜の収集、主要バレエ作品の複数ヴァージョンの比較作業を行っている。コロナ禍により長期間中断していた「バレエ史研究会」も2022年12月に再開し、舞踊史学研究者および一般に対し情報交換の場を提供している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍を想定していなかった研究開始当初の計画を、昨年度の時点で大幅に見直し、本年度はこの修正計画に則って作業を進めた。本年度予定されていた主な作業は、1.18世紀の「バレエ音楽」の概念とレパートリーの調査、2.ノヴェール『舞踊とバレエについての手紙』全訳と解説の出版、3.バレエ音楽全般に関する文献資料、楽譜資料の所蔵調査・収集であるが、これらはいずれも概ね予定通り進めることが出来た。また、「バレエ史研究会」についても、第7回研究会を対面形式で開催しており(於:日本女子体育大学、12月)、さらに次回の研究会も2023年6月に開催が決定している。唯一、研究会ホームページの改定と更新が遅れているが、これについては次年度中に作業予定である。さらに、これまで延期を余儀なくされていた海外での資料調査やアーカイブ訪問も、来年度実施の見通しが立っている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も、18世紀のバレエ音楽の実態調査、バレエ音楽全般に関する文献資料および楽譜資料の所蔵調査・収集、バレエ史研究会の運営は継続していく予定であるが、それと同時に、これまでの調査で得られたデータを整理し、「バレエ音楽のアーカイブ」構築の可能性と限界についての論をまとめる作業を行いたいと考えている。また、これまでに収集してきた史料(特に楽譜資料)から得られた情報の社会還元の一環として、主要レパートリー以外のバレエ音楽の作品解説を、ホームページやソーシャルメディア上に掲載していくことを計画している。さらに、海外への渡航がコロナ禍以前とほぼ同様の形で可能になったことに鑑み、海外の図書館における一次資料調査、舞踊アーカイブの視察を行うことを予定している。
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Causes of Carryover |
昨年に続き、海外渡航に制限がかかる状況であったため、現地での資料調査やアーカイブ訪問を今年度も見合わせることとなった。また、今年度中にホームページの改定と情報更新を行う予定であったが、その他の作業を優先して進めたため、ホームページ関係の作業は保留の状況になっている。以上の理由により、これらに関連する経費を次年度に繰り越す必要が生じた。しかしながら、社会の状況がコロナ禍以前に戻りつつあることもふまえ、次年度は中断・延期していた作業に再着手し、研究課題の成果をまとめる最終的な段階へと作業を進めていきたいと考えている。
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