2020 Fiscal Year Research-status Report
油絵具を用いた夜景絵画制作法の研究:アトキンソン・グリムショーの作品を基盤として
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20K00247
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
株田 昌彦 宇都宮大学, 共同教育学部, 准教授 (50515971)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | コーパルメディウムの素材特性 / 光沢度の比較 / 乾燥速度の比較 / 乾性油の混合比率 |
Outline of Annual Research Achievements |
グリムショー・アトキンソン(Atkinson Grimshaw1836~1893)の絵画技法を考察する上で重要である画用液の検証を行った。グリムショーの使用した画用液のとして、有力視されているのが、コーパルメディウムである。コーパルメディウムの素材特性としては、光沢の高さ、乾燥の速さ、塗膜の堅牢性が挙げられる。今年度は、これらの特性についてサンプルを作成し、官能評価と合わせて光沢度計による計測を実施した。 サンプルの作成にあたり、グリムショーの夜景絵画にとって重要な2つの絵具を選択した。1色目として、絵画の暗部に使用する絵具としてアイボリーブラック、2色目は、下地層に見られる褐色としてトランスペアレントブラウンである。また、混合するコーパルメディウムとしては、現在画材として入手可能な4種類(日本製2つ、アメリカ製1つ、フランス製1つ)を用いた。また比較の対象として、リンシード、スタンドリンシード、ダンマルワニスを採用した。これらの画用液を前述の2色に混合し、グリムショーの作品に多く見られる細目キャんバスに塗布しサンプルを作成した。 光沢度において計測の結果2色共にスタンドリンシードのサンプルが最も光沢度が高く、次いで日本製のコーパルメディウムが高い結果となった。また、乾燥の速度(室内温20℃)においては、日本製の物が最も速く、次いでフランス製、アメリカ製の順番であった。これらの性質の違いはコーパルメディウムに含まれる乾性油の比率の違いが影響していると予想される。彼の代表作『Autumn Glory: The Old Mill 』の樹木の描写に見られる縁が盛り上がったタッチを実現するには、乾燥が極端に早い日本製のメディウムよりも、外国製2社の物のほうが適しているといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度はイギリスのマーサー・アート・ギャラリーやスカボロー・アートギャラリーにて、『In the Gloaming』や『Light in the Harbour』を始め、グリムショーの代表作品の実見調査を行う計画であった。新型コロナウイルス感染症の世界的拡大により、海外への渡航ができなくなったため、調査を実行できなかった。また、同様に勤務する大学での工務においてもコロナ対応のため、十分な研究時間を確保できなかった。 そのため、2020年度は以前の調査から得た情報を基にサンプル作成とその官能評価と機器による測定が中心となった。実験結果を基にした考察の見通しはできているが、研究発表や論文として纏めるまでには至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度では、前年度に実行できなかったイギリスでの調査を遂行したい。しかし、新型コロナの感染状況が不透明であるため、年度後半に調査を設定し、渡航の判断も慎重に行う。本研究は2020年度~2022年度の3年間の研究期間であるが、1年間の研究期間の延長も視野に入れて研究に取り組む。 また、2021年度は2020年度の実験による考察やこれまでの調査の結果を纏め、大学美術教育学会にて論文投稿を行う。また、新型コロナの感染状況を見ながら海外調査の計画を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
2020年度は当初予定していた海外での調査が新型コロナ感染症の世界的拡大により実行できなかった。2020年度の経費の大部分は旅費であったが、これを使用しなかった分、計測器の購入に充てた。予定していた計測器の値段の総計は旅費を下回った。 使用計画として、2021年度の海外調査の旅費として充てる計画であるが、コロナ感染症の状況によっては、論文投稿費や書籍の購入費用に充てることも検討する。
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