2022 Fiscal Year Annual Research Report
油絵具を用いた夜景絵画制作法の研究:アトキンソン・グリムショーの作品を基盤として
Project/Area Number |
20K00247
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
株田 昌彦 宇都宮大学, 共同教育学部, 准教授 (50515971)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | コーパルワニス / 補色を生かした配色 / インプリマトゥーラ |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度は、グリムショーの夜景絵画において発展期とも呼べる1870年代の作品について焦点を当てた。分析の切り口は大きく分けて、①画面構成、②技法の2点である。これは2021年度に行った1860年代の分析法と共通し、年代による制作法の変遷や共通点についても触れた。 ①画面構成では、60年代に見られなかった線遠近法の導入法、統一的な灰緑色と灰赤色の下地の効果、アクセント色となるガス灯のオレンジ色による補色対比の効果について明らかにした。②技法については、繊細な描写を実現するために平滑な支持体が導入されている点、60年代の作品にも見られた部分的なインプリマトゥーラを生かした彩色が夜景絵画にも応用されている点を指摘した。また、先行研究で推測されていたコーパルワニスの使用の証左を実験制作から示した。この点においては、作品中のガラスの描写に用いられている透明なマチエールに着目し、19世紀当時に使用可能な様々なメディウムを想定してサンプルを作成した結果、コーパルワニスのみ実現可能であることを導き出した。 研究の全般的な成果は、1.グリムショーが夜景絵画の技法を確立するに至る経緯を整理することができた点、2.グリムショーの夜景絵画における油彩技法を現代の風景画において応用し、制作法の要点を明らかにした点にある。前者については、特に1860年代の初期絵画における古典技法とラファエル前派の描画法が、1870年代の夜景絵画に応用されていることを明らかにした。後者においては、透明性の高い茶と灰赤紫による下塗りの使い分けや褐色による形態の抜き出しについて作品制作を通して提示した。しかし、灰緑による統一的な色調や線による動勢等、表現としての課題が残った。 今後は、更に制作への応用面で検証を重ねると共に、グリムショー特有の白黒写真に直接油絵具を重ねた作例を基にした制作法についても実践を行う。
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