2020 Fiscal Year Research-status Report
ソヴィエト音楽生活の新たなコンテクスト化に向けて:ソヴィエト・オペラの暗黙知研究
Project/Area Number |
20K00257
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Research Institution | Kunitachi College of Music |
Principal Investigator |
中田 朱美 国立音楽大学, 音楽学部, 非常勤講師 (10466964)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ソヴィエト・オペラ / 歌劇場 / 暗黙知 / ソヴィエト音楽 / ソ連 / 文化政策 / 脱冷戦イデオロギー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ソ連時代のモスクワとサンクト・ペテルブルグにおけるソヴィエト・オペラの上演状況と各オペラ、音楽界における様々な事象・言説を検証した上で、最終的に諸文脈を相互に関連づけることにより、20世紀ソヴィエト音楽文化における状態としての暗黙知を浮かび上がらせることを目的とする。 2020年度はコロナ禍で訪露調査が叶わぬ事態となったため、当初予定していた作業手順を変更し、主に下記2点の作業を行った。まず、ジェルジンスキーの《静かなドン》がいかにしてソヴィエト・オペラの範として偶像化されていったのか、その経緯を1930年代後半の『プラウダ』記事とボリショイ劇場上演状況の対照から検証した。これにより詳らかになったのは、《静かなドン》が1936年の「プラウダ批判」の渦中から第二次世界大戦前までの時期に、《ムツェンスク郡のマクベス夫人》とのあからさまな対置を経ながら、一極集中で称揚されていった様子である。しかし実際にはイデオロギー的に正しいとされるソヴィエト・オペラの規定路線がいまだ存在していなかった中で《静かなドン》は制作され、かつ《マクベス夫人》と上演頻度、舞台関係者、内容面における共通項を有していた。ところが現在に至っても《マクベス夫人》とは対照的に《静かなドン》は敬遠されており、こうした一連の事情からはソヴィエト音楽史における「プラウダ批判」の機能や今に至る影響力が再確認された。この内容については論文にまとめ、2021年夏に刊行予定である。 2点目の作業として、ソ連作曲家同盟機関誌であった月刊誌『Sovetskaya muzyka』における「ソヴィエト・オペラ」にかかわる言説調査に着手した。これは近年、継続後誌『Muzykal'naya akademiya』が公式Webページで前誌の公開を始めたことにより実現したものである。現在は、大戦前までの内容にかんする考察を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の通り、コロナ禍で訪露調査が行えないため、当初予定していた各劇場資料室などでの現地調査は当面の間、諦めざるをえない。そこで、この状況下における現実的な検証対象として、近年Web上で公開され始めた当時の新聞・雑誌の言説やそれらに掲載されている劇場案内を精査する作業に着手した。これにより今後、現地調査での確認項目を効率的に狭められる形を期待する。今日現在、1930年代を始めとする一時期の新聞『プラウダ』や、本研究の最重要資料の一つである月刊誌『ソヴィエト音楽』全号などの閲覧が叶う状況にあり、確認作業を進めている。 またこれまでに研究者が作成したソ連時代におけるボリショイ劇場の上演状況にかんするデータベースのうち、全体主義的な規範が成立する以前の、初期ソヴィエト時代に制作されたソヴィエト・オペラに注目し、上記の新聞・雑誌資料と関連づけて検証を行った。これらを総合的に見て研究の進捗状況はおおむね順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、上記資料の言説研究、および公演案内にもとづく上演状況調査を進める。このほか今年度はボリショイ劇場で舞台公演がおこなわれた芸術祭「デカーダdekada(民族芸術旬間)」の情報を精査し、ソヴィエト・オペラ形成の一背景を確認する。またコロナ禍が収束し次第、可能であれば2022年春の現地調査を目指す。
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Causes of Carryover |
2020年度に2度予定していたロシア研究調査がコロナ禍により不可能になった為。
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