2021 Fiscal Year Research-status Report
The modern history of psychiatry in Taiwan: under Japanese rule and after WWII
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20K00272
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
橋本 明 愛知県立大学, 教育福祉学部, 教授 (40208442)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 精神医療史 / 台湾 / 植民地医学 / 精神医学史 / 養神院 / 社会事業史 / 龍發堂 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、前年度からの戦前の日本統治下台湾における精神医療史研究に加えて、戦後台湾の状況にも焦点を当てた。とくに戦前については、1934年に台湾総督府が台北に設立した精神病院「養神院」の歴史を整理した。「養神院」は多くの文献で言及される名称ではあるが、本研究では設立の経緯、スタッフの構成、台湾内部での病院への批判など、従来の研究では十分に踏み込まれなかった詳細にまで立ち入り、論文「養神院の誕生:台湾総督府の精神医療プロジェクト」(『社会福祉研究』第23巻、2021年)としてまとめた。 他方、戦後台湾では、戦前日本の精神医療インフラがある程度利用された(たとえば「養神院」は別組織としてしばらく存続した)ものの、一般的には慢性的な施設不足が続き、長期間にわたる戒厳令下にあって不安定な社会状況におかれ、さらには中国大陸との関係をめぐる国内の政治勢力間の対立などを背景に、精神医療の法制度の整備は立ち遅れた。1980年代以降の精神障害者の劣悪処遇批判を受けて、台湾で最初の精神医療立法となる精神保健法が成立したのは、1990年になってからだった。 こうした劣悪処遇を象徴するものとされてきたのが、1970年代に活動をはじめた「仏教寺院」龍發堂が1980年に台湾南部の高雄市郊外に建てた精神障害者収容施設だった。精神科医・文榮光による1980年代の龍發堂での比較文化精神医学的な調査研究は、民間の宗教的な施設が精神障害者処遇に果たす役割とリスクを明らかにしている。本研究では、21世紀に入ってからの文榮光らの研究成果も踏まえ、また、龍發堂批判を扱った湯家碩の論文「龍發堂與台湾現代精神医療、1980-1990」(蔡友月・陳嘉新編『不正常的人?』聯經出版、2018年所収)、およびこの論文が参照している文献を網羅的に収集し、解読を進め、目下、戦後台湾の精神医療史をまとめている段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度も、2020年度と同様に、コロナ感染拡大のために海外渡航ができず、台湾を訪問していたら収集できたと思われる資料がないまま研究を進めなければならなかった。だが、台湾における研究データのデジタル化は進んでおり、ウェッブ上で基本的な資料(とくに台湾総督府関係資料)を収集することにはさほど困難は感じられなかった。 また、ある程度の時間はかかるものの、必要に応じて、勤務先大学の図書館を通じて台湾の研究機関から書籍等を直接借り受けるなどにより、閲覧が可能になった資料も少なくない。 したがって、文献資料によっては到達できない現地情報や、ウェッブ上で公開されていない貴重資料などを除けば、研究成果をまとめられるだけのデータをおおむね収集できていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、前年度および前々年度に収集したデータを再度整理するなかで明らかになるだろう不足部分を補う資料収集を急ぐとともに、戦前・戦後を通じた台湾精神医療の近現代史をまとめ、報告書としてまとめることに専念する予定である。 また、その作業と同時並行しながら、とくに台湾の研究者への当該研究へのアクセスを考えて、英文による論文作成も行いたい。
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Causes of Carryover |
前年度は海外渡航ができず、また、国内の学会等もオンライン開催となり、旅費として予算を執行することができたのはごく一部で、それらの残が今年度に繰り越された形になっている。今年度は、ある程度は旅費として執行するものもあると予測されるが、いまだ海外渡航が見通せず、国外旅費としては使えない可能性もある。しかし、2022年度が研究の最終年度であり、報告書の作成や、英文による論文等投稿にかかる費用(おもにネイティブチェック)を見込んでいる。
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