2020 Fiscal Year Research-status Report
意識のハード・プロブレムの「生物学の哲学」による再構成と解明に向けた研究
Project/Area Number |
20K00275
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
田中 泉吏 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (90757098)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 大地 筑波大学, 生命環境系, 助教 (60866672)
太田 紘史 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (80726802)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 意識 / 生物学的自然主義 / 神経生物学的自然主義 / 相同性 |
Outline of Annual Research Achievements |
意識の問題をいわば「生物学化」するための第一歩として,哲学者サールの生物学的自然主義の発展形であるファインバーグとマラットの神経生物学的自然主義を(主に視覚的意識に限定して)批判的に検討した.この立場は意識の生物学的説明の枠組みとして概ね正しい方向性を指し示しているように思われるが,意識を行動機能と結びつけるという擁護の困難な想定に依拠している.そこで本研究では意識と結びつく行動機能はむしろ特定クラスの行為者性にあると論じることで,その弱点を克服する方策を見出した.また,意識の神経基盤が進化史の中で非相同な神経構造へと移行しているというファインバーグとマラットの主張の含意についても考察した.この主張は,意識は原始脊椎動物から継承され,それゆえ脊椎動物種間で相同な表現型特徴であるという主張と一見したところ緊張関係にあるように思われるが,様々な相同性の概念を吟味する過程で,前者の主張は意識を含めた心理的形質の相同性に関する見方を発展させるものであり,相同性の階層相対的な性格を踏まえれば一見対立する2つの主張の緊張関係は解消されるということが明らかになった.このように,意識の系統発生的な分布と継承についての理論として,神経生物学的自然主義を首尾一貫した形に修正できることを示せたが,同時にそれは意識の系統的説明に限定されるので,意識の選択的説明についてはまた別の考察が必要であるということも判明した.以上の研究成果を「視覚意識の系統的な分布と軌跡:ファインバーグとマラットの神経生物学的自然主義を検討する」と題する論文にまとめ,国外の学術誌に投稿した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では,心の哲学者,生物学の哲学者,生物学者が共同して「意識の生物学的説明を可能にする基盤」を確立することを目的としている.本年度は,この目標を達成する第一段階として,哲学者サールの生物学的自然主義の発展形であるファインバーグとマラットの神経生物学的自然主義を批判的に検討し,論文の投稿にまで至った.この進捗状況は当初の想定を超えたものであり,計画した以上の進展が見られると言って差し支えない.
|
Strategy for Future Research Activity |
当初は科学基礎論学会の2021年度大会(於・大阪市立大学)において本研究に基づくワークショップを企画する予定であったが,講演者の都合により同年の秋に開催される同学会の例会まで延期することを決定した.このワークショップでは本研究のメンバーに加え,生物学の哲学と心の哲学をそれぞれ専門とする別の研究者にも講演を依頼して内諾を得ている.その研究者の講演も含めたワークショップの内容をもとに,科学基礎論学会欧文誌Annals of the Japan Association for Philosophy of Science の2022年度9月号において特集を組むことが元より確定している.これらのワークショップと学会誌特集の企画のためにも,定期的にオンラインミーティングを開催する予定である.また,本研究メンバーの共著で研究成果を発信する著作を出版する企画が新たに立ち上がり,慶應義塾大学出版会より出版することが決まっている.2021年度には執筆作業を進め,2021年度もしくは2022年度には刊行の予定である.
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大を受けて研究代表者の学内業務の負担が大きくなり,研究費を予定通り使用することができなかった.次年度はこの未使用分を当初の予定(心の哲学関係書籍および進化生物学関係書籍購入)に沿って使用していく予定である.
|