2020 Fiscal Year Research-status Report
近世中後期上方の読本制作における史書・地誌の影響に関する研究
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20K00285
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
藤川 玲満 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 講師 (20509674)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本文学 / 近世文学 / 読本 |
Outline of Annual Research Achievements |
戯作の形成と近世中後期の文壇・学芸の潮流との関係の解明によって、時代環境に即した読本の解釈を試みるという本研究の目的のもと、本年度は主に、大坂の戯作者で歌舞伎作者としての業績や地誌的随筆『摂陽奇観』の著述がある浜松歌国の読本執筆を対象に、素材からの形成の実態と手法について検討を行った。具体的には、歌国の読本のうち原拠と対照可能で独自性の強い初期作品の2作、『忠孝貞婦伝』(文化10年刊)と『駿河舞』(文化11年刊)について、それぞれ素材源・原拠作品である浄瑠璃『神霊矢口渡』(福内鬼外作、明和7年初演)、歌舞伎『傾城天羽衣』(並木正三作、宝暦3年初演)との対応関係を明らかにし、ストーリーの改変・趣向の添加について、その要因や作者の意図と併せて検証した。その結果として、この2作の形成では、もとにした先行作品に対して異なる手法の試みが見出された。『忠孝貞婦伝』はストーリー自体を新規に用意し、そのなかに原拠の要素(人物・エピソード)を投影させる手法をとり、『駿河舞』は原拠の大枠を踏襲したストーリーに新規の要素を追加して重層化する手法をとる。また、後年の読本作品も含め、歌国の著作間で趣向を共用した可能性が考えられた。この成果には、史伝の主題に対する戯作者の態度、あるいは原拠や摂取素材から窺える近時の芸能・巷談等への関心の解明の一環としての意義があり、明らかになった歌国の態度と試みが、同時代の、とくに読本史の稗史ものの動向のなかにどのように位置付けられるのかという点がさらに究明すべき課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文壇の複数の領域で活動した経歴を持つ作者を対象として、新たに小説形成の手法の具体相を明らかにする成果を得ている。また、各作品の内容と連繋する他ジャンルや素材の摂取に関して、時代性の一端も捉えられている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、さらに他の作者たちを対象に、戯作の生成(内容形成および制作事情)と同時代の歴史・地理の学術研究の関心・傾向との関係の解明、また、作者の知識体系、文献等に対する認識や依拠の態度についての解明を進めていく。
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Causes of Carryover |
次年度に繰り延べた調査研究のための経費について、本年度未使用額が生じた。これは次年度に当該の調査研究を遂行するために使用する。これとあわせて、当初の次年度の計画内容を実施する目的で、次年度交付の研究費を使用する計画である。
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Research Products
(1 results)