2021 Fiscal Year Research-status Report
近世中後期上方の読本制作における史書・地誌の影響に関する研究
Project/Area Number |
20K00285
|
Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
藤川 玲満 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (20509674)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 日本文学 / 近世文学 / 読本 |
Outline of Annual Research Achievements |
近世中後期の文壇・学問と戯作の形成との関係に着目し、時代環境とあわせて読本形成の様相を明らかにしていく本研究の目的のもと、本年度は主として、江戸の稗史もの読本の流れを汲む上方の作者として、過渡期的性格などを指摘され注目すべき位置にある手塚兎月の著述を対象とする研究を実施した。具体的には、鎌倉政権・北条執権下を扱う歴史小説『絵本鎌倉新話』『都鄙物語』など、化政期を中心とする兎月の全作品(13点)から、趣向、素材の取り扱いを総体的に調査分析することにより、手法と著述の基底にある態度の特性を見出すことを試みた。その結果として、素材に関しては、中国の史話を話の骨組みや印象に影響させるときの意味合いに作者の主張を打ち出すことや、政治史を軸とする筋運びのなかに文化史・社会史のモデル(素材)を嵌め込んでいく創作方法が明らかとなった。趣向に関しては、作品間で顕著な、設定を変形・融通して反復する傾向に、ストーリー上の機能的な試み(モデルを取り込む戦略、人物造型、伏線の提示など)を持たせる作者の技巧が認められること、さらにその描写内容と筋の展開に、勧懲・因果と家族関係・情の問題あるいは忠孝論といった思想的主題を、独自性を込めて打ち出していく積極的な志向があることが明らかとなった。この研究成果には、江戸の稗史ものを念頭に著述を行った上方作者について、史伝と創作素材を混交して形成するときの態度と手法を捉えることができた点で意義があると考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までに明らかにした上方作者の態度・手法ともあわせることで、文化期の集合的な動態の解明に資する成果が得られており、その類型性や、連鎖、経年的な推移を体系立てて捉える展開に繋げられると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、『絵本朝鮮軍記』の形成の態度など、さらに歴史的・地理的な個別の事象にも焦点を当てながら、読本作者たちの題材に対する同時代的認識・知識体系と創作の志向の特性を、制作事情・環境との相互作用と合わせて検討・解明していく。
|
Causes of Carryover |
次年度に繰り延べることにした調査研究があり、その経費について本年度未使用額が生じた。この未使用額は、次年度に当該の調査研究を実施するために使用する。これとあわせて、当初の次年度の研究内容を遂行するために次年度交付の研究費を使用する計画である。
|
Research Products
(1 results)