2021 Fiscal Year Research-status Report
上田秋成およびその周辺の俳諧研究のための資料整備と発展的研究
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20K00294
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
近衞 典子 駒澤大学, 文学部, 教授 (20178297)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
清登 典子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (60177954)
大石 房子 (金田房子) 清泉女子大学, 付置研究所, 客員所員 (80746462)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 上田秋成 / 俳諧 / 連句 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度(2021)は前年度に引き続き、コロナの影響で現地調査はほとんど実施できなかったが、オンラインで研究会を開催し、秋成の連句作品について注釈作業を行った。メンバーは研究代表者、2名の研究分担者のほか、研究協力者として2名の方にも参加していただき、5人で輪読を行った。 具体的には、5月15日、8月7日、9月25日、10月30日、1月15日、2月12日、3月5日の7回、Zoomを利用して研究会を実施した。歌仙は一人9句ずつ、百韻は一人10句ずつの分担とし、事前にメール送付された発表資料データを基に各自が担当した連句の注釈を発表。それを受けてメンバー全員で内容を検討、議論を重ね、修正を加えた。後日、修正箇所を反映したデータを各自が研究代表者にメール送付、代表者がそれを取り纏める、という形で研究成果を蓄積している。作品としては、石川真弘「上田秋成連句集」(『樟蔭国文学』40号、2003年3月)に基づき、『雲淋し』歌仙(『俳諧十六日』所収)から始めて、『是や此』歌仙(『うたゝね 藤』所収)、『煤掃の』歌仙(『はなしあいて』所収)、「樟脳も」歌仙(『亀文追善集』所収)、「斬すてし」歌仙(『雪達摩』所収)、「鐘冴る」百韻(『さし柳』所収)まで読み進めた。 研究を通じて浮かび上がってきたのは、蕉風俳諧とは趣の異なる独自な詠みぶりである。どのような連想によってその付合になったのか、議論を重ねても判然としない句もあり、句の解釈に難儀することも少なくなかった。しかし、それが秋成周辺の俳人たちの間では通用していたということであり、その特徴を考察することが、当時の大坂俳壇のありようを理解することに繋がるはずである。漁焉(秋成)の句の特徴も、その文化圏との関係性において考察すべき事柄であり、発句だけでなく連句の展開の相を具体的に追求していくことの重要性が改めて認識された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度も前年度同様、コロナ感染予防の観点から、オンラインで研究会を実施した。2年目であるので、メンバーもこの方式に慣れてきており、当初の計画通り、1~2ヶ月に1度のペースで順調に研究会を開催することができた。 また、これまで研究代表者以外のメンバー(研究分担者、研究協力者)は俳諧研究の専門家であったが、令和3年度は新たに小説を専門とする研究協力者1名に注釈作業に加わっていただくことになった。そのため研究会において、これまで以上に多面的な様々な用例が提示されることとなり、句の解釈もより適切なものになったと考える。当該年度の注釈作業においては、従来の俳諧におけるルールを逸脱したとも見える、どこか小説的な句の展開が時々見られたのであるが、これについても、より巨視的な観点から作品を把握することができるようになった。 ただ、注釈の具体的な作業については、メンバー間で句の解釈が揺れ、議論が活発に交わされることも多く、相応の時間を費やすことが折々にあったため、取り上げる作品数といった面から見れば、進捗状況は当初計画より遅れ気味である。しかしながら、今回の事業は秋成の一座する連句に対する初めての注釈作業であり、より正確な注釈を試みること、連句の運び方などの秋成周辺の大坂俳壇の特徴を把握することが、研究上、何よりも重要なことであると考えた。そこで、拙速に機械的に解釈を進めるよりも、十分な時間をかけて各句を検討し、理解することに尽力することにした。 一方、各地の図書館や資料館を訪問し、原資料の確認や新資料の発掘の努力をするといったことも計画していたが、こちらはコロナ流行の影響で十分に行うことができなかった。やむを得ないことではあるが、次年度はよりよい状況になっていることを願う。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度(2022)もこれまで同様、オンライン研究会を1~2ヶ月に1度の頻度で開催し、石川真弘「上田秋成連句集」(『樟蔭国文学』40号、2003年3月)に基づいて、秋成の一座する連句作品の注釈作業を進める予定である。また、コロナ感染の拡大状況によるが、もし可能であれば、各地の図書館や資料館で資料収集や調査研究を行いたい。さらに、夏休み等を利用して対面で集中的に注釈作業を進め、3年間の研究の蓄積を踏まえた議論を深めることも想定している。 この課題の最も中心となる注釈作業について、具体的には、昨年度に引き続き、未読作品の連句を丁寧に注釈することから始める。まずは昨年度に途中まで読み進めた『鐘冴る』百韻を継続して読解・注釈する。これを読了した後は、歌仙4作品(「稀人や」歌仙、「子たる人」歌仙、「いざさらば」歌仙、「年の夜の」歌仙)、百韻1作品(「蝶鳥の」百韻)、七十二候1作品(「芽を出して」七十二候)等、残された未読作品を昨年度と同様の方法で読み進め、注釈の成果を積み重ねていく予定である。少し趣が異なるが、できれば、これまであまり注目されることのなかった高点集所載の作品にも歩を進め、考察していきたい。 次に、これまでの2年間の研究の蓄積により、秋成やその周辺の俳諧作者の連句の特徴が少しずつ明らかになってきている。今年度、すべての連句作品を読了した後には、その研究成果に基づき、改めて秋成および秋成が一座した作品全体を大きな視点で捉え直す必要がある。これらの連句が詠まれた時代や作品成立の背景、地域の特性にも目配りしながら、秋成連句の特徴を明らかにしたいと考えている。時間が許せば、例えば芭蕉門の連句との比較など、より大局的な視点からの考察にも取り組みたい。 本課題における3年間の研究を通じて得た知見を結集し、秋成およびその周辺の俳諧の注釈と、大坂俳壇の大きな見取り図を示すことが目標である。
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Causes of Carryover |
秋成の関わる俳書や関連資料を各地の図書館に出向いて調査・実見する予定であったが、コロナ感染拡大による図書館の利用制限や移動の自粛により、遠方への出張・調査ができなかった。 今年度は、コロナ感染が収まった時を見計らって、できる限り資料収集に当たりたいと考えている。また、紙焼き資料なども精力的に収集していきたい。
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