2020 Fiscal Year Research-status Report
墓の顕示機能の分析と墓誌の表現分析を基盤とした日中韓三カ国の文化交流の融合的研究
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20K00330
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
廣川 晶輝 甲南大学, 文学部, 教授 (40312326)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 万葉集 / 墓 / 古墳 / 墓誌 / 輓章 / 日中韓文化交流 / 山上憶良 / 沈痾自哀文 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、墓が持つ顕示機能の分析と墓誌の表現分析を基盤とし、従来指摘されていない日・中・韓三カ国の古代の文化交流の様相を解明し東アジア文化交流の理解に貢献することを最大の目的としている。そして、文学・文化・考古学の融合的研究を確実に推進することで上記目的を達成すべく尽力している。 研究代表者廣川晶輝は、中国金石文の表現が日本上代文学の表現に与えた影響を解明し日中文化交流の従来指摘されてこなかった道筋を明白にした実績を持つ。この斬新な着想によって科研費「墓誌の表現分析に基づく日中文化交流の基礎的研究」の交付を得、その着想は廣川晶輝「山上憶良作漢文中の『再見』小考」(『甲南大学紀要 文学編 日本語日本文学特集』、148号、2007年)として結実した。その論考の概略は【『万葉集』の歌人山上憶良の作品「日本挽歌」の前置漢文に「再見」という表現がある。この「再見」と同じ用法の用例は一般の漢籍には検出できないが、中国唐で「國史」を監修し文化の中枢にいた武三思の「大周無上孝明高皇后碑銘并序」に見出せる。遣唐使としての在唐経験がある山上憶良であるだけに、当時の唐の文化の摂取を強く指摘できる。】というものである。その『万葉集』歌人山上憶良の一大漢文作品に「沈痾自哀文」(『万葉集』巻5)があり、数多くの漢籍からの表現受容を研究するための好材料となっている。今年度は当該作品の表現分析を一層推進した。研究推進のうえでは研究対象作品の本文校訂が必須であり、必須文献『校本万葉集』を参照しつつ次点本(非仙覚本)として重要な細井本、廣瀬本、紀州本の記述を丁寧に比較参照することで当該「沈痾自哀文」の一字一句にわたる本文校訂を展開した。研究においては他者の評価の目を導入することで研究の公正性を保持する重要性に鑑み、オンラインミーティングツールZoomによる研究会を定期的に実施して研究を確実に推進した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は新型コロナウイルス感染防止対策として必然として所属大学より、緊急事態宣言発令時の臨地調査研究出張は固く禁じられた。また、緊急事態宣言が発令されていない時期においても原則として臨地調査研究出張等の自粛が強く求められた。このような閉塞した状況にあっても、研究調書に具体的方法として明示した方法、つまり、『万葉集』歌人山上憶良の一大漢文作品「沈痾自哀文」(『万葉集』巻5)の表現研究を推進することができた。本研究課題が研究対象とする『万葉集』は現在から1300年も昔の奈良時代の書物であり、その書物が現代にもたらされた奇跡には先人達の書写作業の努力があった。しかし一方、書写における誤写等によりさまざまな形態の『万葉集』が出現してしまっている。古典文学作品を研究する際にはどの作品でも必須であるように、その対象作品のオリジナルの本文がどのような形であったのかを見定める作業、つまり〈本文校訂作業〉が必要不可欠である。今年度は上記のように、数々の古墳・墓の臨地調査研究出張が固く禁じられ、また、自粛が強く求められた。その中で、「沈痾自哀文」(『万葉集』巻5)の〈本文校訂作業〉を着実に推進することができた。その研究の中で、『万葉集』の写本の次点本(非仙覚本)として重要な細井本と廣瀬本の位置関係を、一字一句の草書や行書の形、丁(ページのこと)の割り振りに至るまで、微細かつ詳細に分析することができた。今年度のこのような基礎的かつ必須の研究の成果は、来年度以降の研究の〈礎〉である。なお、この〈本文校訂作業〉研究の公正性を保持するために研究者同士の連携をはかることができた意義も大きい。出張が不可能である閉塞した状況を逆手に取り、オンラインミーティングツールZoomを活用した研究会を定期的に実施して研究を確実に推進できた。研究の歩みを決して止めることのなかったこの意義も、きわめて大きいと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染防止対策として所属大学より求められる対応は、来年度も今年度と同様であることが予想される。この状況においても研究の歩みを止めることがないように今後もオンラインミーティングツールZoomを活用して『万葉集』の〈本文校訂作業〉の研究会を定期的に開催する。現にこの様式を執筆している現在(5月6日)においても、2021年6月6日にオンラインミーティングツールZoomを活用しての『万葉集』の〈本文校訂作業〉の研究会の予定をすでに組んでいる。その研究会において研究代表者廣川晶輝は『万葉集』歌人山上憶良の一大漢文作品「沈痾自哀文」(『万葉集』巻5)の〈本文校訂作業〉を遂行する。そして〈本文校訂作業〉という研究の土台作りを経たうえで「沈痾自哀文」の表現の研究を推進する。 新型コロナウイルス流行が収束し臨地調査研究出張が可能となった暁には、すでに研究協力を得ている群馬県安中市教育委員会井上慎也氏の協力のもと、幹線道「古代東山道」の要衝の地における「古墳の機能・機制」究明のため「後閑3号墳」の臨地調査研究を推進する。同古墳の「T字形石室」の形状が、横穴式石室が幹線道を通って中央から伝播した証である知見をすでに得ている。その知見をもとに同地域の古代東山道に面す「簗瀬二子塚古墳」の副葬品と韓国祭祀遺跡との関連の研究を推進する。また、すでに研究協力を得ている奈良県生駒郡平群町教育委員会葛本隆将氏の協力のもと、「穹窿(きゅうりゅう)状」(ドーム状)石室を持つ同町「宮山塚古墳」の臨地調査研究を実施する。同古墳は大韓民国忠清南道の「宋山里古墳群」の5号墳の形状と酷似する。古墳の臨地調査研究をとおして「韓国-日本」の文化交流の考究の確実な成果としたい。 そして、文学・文化・考古学の融合的研究を確実に推進し、日・中・韓三カ国の古代の文化交流の様相を解明し東アジア文化交流の理解に貢献する。
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