2021 Fiscal Year Research-status Report
ブラジル日系文学、その変容過程の探究―小説と短歌の「現在」
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20K00338
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
杉山 欣也 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (90547077)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ブラジル日系文学 / 越境 / 郷愁 |
Outline of Annual Research Achievements |
コロナ禍によりブラジル調査ができなかったことに加え、年度後半に体調が悪化し手術に至ったことが重なり、予定通りの研究が進展できなかったことは率直に認めなければならない。 一方、ブラジル日系文学研究の命題を「越境」による「郷愁」の変容にそのタームを定め、所属機関の研究者や他所属機関の研究者と連携を取り、第1回「越境と郷愁」研究会をコーディネートできた(2022年2月23日、オンライン開催)。この研究会の発表者は在日朝鮮人による日本語文学とユダヤ系ウクライナ人によるイディッシュ語文学における「郷愁」の様相を取り上げたが、討議においてブラジル日系文学のそれとの差異を比較し得たことにより、世界的な視野の中でのブラジル日系文学の位相について着想を得たことは個人的に大きな収穫であり、また、次なる研究組織づくりの基盤を得たことは特筆できる成果であったと考える。なお本研究会には50名ほどの参加者があり、成果還元となった。 また、金沢大学および公立小松大学においてこれまでの研究成果を活かして授業を展開し、これまで知られるところの少なかったブラジル日系文学について教育を通した啓蒙ができたことは、昨年度末に石川県海外移住家族会の展覧会に引き続く成果と言える。そしてその結果として、卒業論文や博士論文でブラジル日系文学を俎上に上げる学生が現れた。「ブラジル日系文学」研究領域の確立へ向けて大きな一歩となる。 最後に、「越境」による「郷愁」の変容についてもっとも大きな示唆を与えたブラジル日系文学作品である「にほんじん」が邦訳刊行されるにあたり、著者オスカール・ナカザト氏を金沢大学に招き、講演を開催する。これにより、さらに研究が進展することが期待できる。 また、国内で買えるブラジル日系文学書籍を購入、分析に努めたことと合わせ、2021年度は最終年度に向けての研究整備を進めた年であったと総括できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍および病気のため論文発表に至らなかった点は反省点として自己評価を下げざるを得ない。そのかわり2022ー23年度に向けての基盤整備として以下の点を進められたことにより、最低評価は免れたと判断している。
(1)今後の研究上の命題を「「越境」による「郷愁」の変容」にタームを定め、所属機関の研究者や他所属機関の研究者の協力を得て第1回「越境と郷愁」研究会をオンライン開催し、討議においてブラジル日系文学のそれとの差異を比較し得たことにより、世界的な視野の中でのブラジル日系文学の位相について着想を得た。 (2)金沢大学および公立小松大学においてこれまでの研究成果を活かして授業を展開した結果、卒業論文や博士論文でブラジル日系文学を俎上に上げる学生が現れた。これは「ブラジル日系文学」という研究領域の確立へ向けて大きな基盤づくりであると同時に将来の研究協力者や共同研究者の養成にもなっている。 (3)ブラジル国政府機関や他機関所属の研究者の協力により、(1)の着想に大きな示唆を与えた小説の作者を金沢大学に招き、講演を開催する予定がたったこと。これにより、さらに研究と啓蒙、教育が進展できる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)「越境」による「郷愁」の変容についてもっとも大きな示唆を与えたブラジル日系文学作品の著者を7月に招き、実際に日本を体験したことによる「郷愁」の変容について話を伺うこととする。またサンパウロ大学より若手研究者を研究員として受け入れ、共同研究を行う(5月入国予定)。 (2)コロナの感染状況を確認しながらになるが、年度内にブラジル(主にサンパウロ、リオデジャネイロ)を訪問し、現地大学や研究機関を訪問し、資料の収集や聞き取りを行う予定。 (3)たちあげた「越境と郷愁」研究会に他国文学の研究者を招き、自身の研究への示唆を得ると同時に、新たな横断的研究ネットワーク作りを目指す。さらにブラジル日系文学による博士院生の指導を進め、本年度中に学位を得る指導を進め、研究領域の確立の一助としつつ、研究協力者の養成を行う。 (4)それらを行いながら「越境」による「郷愁」の変容過程についての論文を、いくつかの事例から執筆する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍によりブラジル現地調査ができなかったことが主な理由である。金額的にも調査旅費程度となっている。2022年度は入国緩和等の理由から現地調査ができると考えられるため、2022年度分経費と合わせて長期的な滞在を行う予定で大学業務はすでに空けてある状態。また日系ブラジル人作家の国内旅費を負担し、金沢大学において講演を行っていただく謝金などで充当できると考えている。その他、必要な書籍等の購入や学会参加費用や資料整理の謝金等に充てる予定。
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