2020 Fiscal Year Research-status Report
近世前期における史書・軍書類の編纂・出版と情報流通の研究
Project/Area Number |
20K00348
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
倉員 正江 (長谷川正江) 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (70307817)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 翁物語 / 小早川能久 / 鶴頭夜話 / 老談記 / 小早川伝記 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は当該研究課題の最初の年度であり、小早川能久著写本『翁物語』の諸本調査に着手した。ただし、新型コロナウィルス感染拡大による本務校からの通達により、県境を越える調査旅行を制限された期間があったこと、各大学図書館や専門図書館において閲覧停止等の制限があったことが要因となり、諸本調査が滞る結果となった。そこで閲覧本数が限定されてはいたが、伝存諸本の“傾向性”を把握するに止めることにして調査の方針を変更した。 こうした事情から、地方の所蔵機関は住吉大社御文庫のみの調査となったが、近年古典籍の画像公開が飛躍的に進んだことに助けられ、特に国立公文書館内閣文庫所蔵本の画像と原本で、かなりの蔵書が閲覧できたことにより調査がある程度進展した。まずは、原初形態の写本を確定することとし、その可能性が高いと見て既に入手していた金刀比羅宮図書館蔵『翁物語』8冊の各条冒頭箇所の翻刻をWord文書で作成し、Wordの検索機能を利用して諸本の条文との異同を確認する方法を試みた。 結果として、金刀比羅本には冊数表記に錯誤があるものの、内容的には能久が孫の3人の男児に向けて執筆した原初本と判断できると考えた。また従来言及のなかった『翁物語』異本の存在を突き止め、原初本と重複する条、独自の条を判別できた。また抄出写本も複数存在しているが、原初本・異本が基となった写本をそれぞれ分類することができた。この事実が何を意味しているか、異本独自の条文も能久の著作か否か等、未解決の課題が残される結果となったが、むしろ今後の研究課題を突き付けられたものと前向きに受け止めた。今年度は敢えて【論文】として発表することを避け、現状の諸本調査の結果を【研究ノート】一本としてまとめ、発表するにとどめた(後掲)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」にも記したとおり、コロナ禍において調査旅行や古典籍閲覧に制限があったことが要因である。閲覧停止(首都圏であっても大学図書館の場合、私が学外者という立場のため利用不可となっているケースもあるが、学生を含む学内者を優先する図書館の事情は理解できるのでやむを得ない)が続き、特に地方の調査が滞ったことは否定できない。大学がオンデマンド授業となったため、従来以上に教材作成や動画配信の負担があった事も事実である。ただし、『翁物語』諸本の系統について、前述の困難な状況下ながら、ある程度見通しが立ったことの意味は大きいと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度は研究調査旅行が制限されたこともあり、研究費の旅費が費消できない状況の中、和古書を購入するように努めた。幸い写本の軍書類は古典籍の中では比較的高額ではないため、甲州流軍学の伝書類を古書店から入手した。今後もこうした写本を中心に和古書の発掘に努める予定である。これは、和古書の散逸を防ぐ手立てでもある。 その中で特に小早川能久の門人香西成資が記した師匠やその師匠である小幡景憲の伝記的事項について、従来未見の貴重な情報を得ている。もちろん内容の信憑性の問題はあり、事実明らかな誤聞もあるが、これを考証して発表する研究的価値は十分にあると考えている。 『翁物語』の諸本調査は継続する予定だが、能久周辺の人物、特に能久の従姉(実母の姉〈ともに大友宗麟の実娘〉の娘)に当たると見られる寿林尼は、大奥で春日局に次ぐ重要な地位を占めた。著名人の娘であっても、当時の女性は生没年さえ未詳であるケースが少なくない。どこまで伝記を明確にしうるか未知数な部分はあるが、こうした人物の調査にも着手しつつある。 また大河内秀元の著作の整理と考察も並行して行う。これは従来収集してきた複写物が少なからず手もとに蓄積されている。またインターネット上で地方における所蔵機関の古文書類の画像公開も進んでいることは有意義な状況である。よって新型コロナ感染の再拡大等により、今年度も新たな調査が滞ったとしても、それを補える資料が、ある程度は閲覧可能であることが分かっている。よって研究の推進については、全体的に見れば大きな課題はないと考えている。
|
Causes of Carryover |
調査旅行の旅費が、閲覧制限等で支出できなかったため。 調査旅費の一部として使用予定。不可能な状況であれば、物品費(図書購入)の一部として使用予定。
|
Research Products
(1 results)