2021 Fiscal Year Research-status Report
近世前期における史書・軍書類の編纂・出版と情報流通の研究
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20K00348
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
倉員 正江 (長谷川正江) 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (70307817)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 小早川能久 / 小幡景憲 / 香西成資 / 毛利秀元 / 寿林 / 小幡小早河両師伝 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、甲州流軍学者として知られる小早川能久の伝記的研究を中心に実施した。能久は毛利秀包とドナ・マセンシア(大友宗麟の娘)の3男として出生し、名門の出身ながら、毛利家を離反したこともあり生没年をはじめ、未詳な点が少なくなかった。岩波書店刊『国書人名辞典』にも、「生没年未詳」とし「讃岐の人」とするなど誤謬が見られる。 昨年度に当該課題を研究する参考文献として甲州流軍学書の写本を一括購入したが、中に『小幡小早河両師伝』なる書が含まれていた。書名からも分かるように能久の師・小幡景憲と能久の伝記を、門弟で福岡藩軍学者となった香西成資が後年執筆した書であり、誤解もなしとしないが、能久の事跡について、貴重な新知見を得ることができた。周知の資料をも併せて参照し、以下の点が明らかになった。 能久の生年は慶長3年、没年月日は寛文9年4月17日、享年69である可能性が高く、出生地は久留米城内と推定される。父の没後、長府藩主で従兄に当たる毛利秀元家中にあり、能久が14歳の時、従姉にあたる寿林(宗麟長女の長女と見られる)と称する大奥の女中の仲介で、将軍徳川秀忠に小姓奉公をする話が進んだが、秀元が反対して立ち消えた。大坂夏の陣の時には、秀元配下で従軍している。秀元が身内から幕臣を出すことを嫌うと察知した能久は、23歳にして江戸に出奔し、浪人生活を続けながら、幕臣となっていた景憲に入門した。水戸藩主徳川頼房の長男頼重が下館藩主から高松藩主に転封の際、後見役の軍学者として随行し、高松にて成資が入門、能久の仲介で成資は江戸で景憲に入門し、能久は高松にて没した。一男一女があったが長男は早逝、高松藩士風祭某と結婚した娘の男児を養子とするがこれも早逝し、直系の子孫は断絶したとみられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ感染症流行により、資料調査出張が制限されたことは否定しがたい事実である。高松における高松藩関係の資料調査や、福岡等九州方面における九州諸藩関係の調査を断念せざるを得なかった点は悔やまれる。 一方で資料所蔵機関による電子版資料公開が進んだこと、また「日本の古本屋」等古書店のウェブサイトが充実し貴重な写本資料類を入手できたことで、かなりの程度を補えたと考えている。幸いなことに、写本の軍書などの古文書類はいまだ比較的安価であるため、購入が可能であったことにも助けられた。今年度は小早川能久の伝記とその周辺人物について、想定外の研究成果が得られたと自負している。 また過去の科研費取得課題による研究成果に大いに助けられていることも事実で、この蓄積が生かせていることにも感謝したい。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き資料調査出張が制限される状況を想定し、資料の所在地に鑑みて具体的に取り上げる作品に変更が見込まれることも視野に入れる。 具体的には前述『小幡小早河両師伝』の記述を基に、香西成資が『武田兵術文稿』(宝永5年自跋刊)を執筆した動機や意図の一端を探ることを考えている。本書は出版された甲州流軍学書という点で貴重であるが、従来ほとんど言及がない。中でも巻末「豊臣閣下撃朝鮮国論」なる一節は、朝鮮出兵時の文禄の役において、碧蹄館の合戦で活躍した小早川隆景を称揚している。これは合戦自体が甲州流と関係があるとは考えられず、小早川能久の血縁者として隆景を顕彰する意図があったことが述べられている。この合戦については、以前科研費による研究成果として拙稿を執筆しており、それを基に発展させることを考えている。 また写本軍書『大友記』と水戸藩による史書編纂との関係は、これも以前の科研費にて着想したテーマであるが、論文執筆に至らなかった。私の定年退職時期を考えると、今回が最後の科研費取得となる可能性が高く、諸藩における資料の貸借をめぐる情報流通という、平成13年度から一貫したテーマを追究し続けた以上、自分なりに研究の集大成を試みたいと考えている。
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Causes of Carryover |
令和3年度はコロナ禍の影響があり、旅費支出が0円という結果に終わったことが、次年度使用額が生じた大きな理由である。令和4年度も引き続き不透明な要素があるが、極力資料調査旅費として使用し、充実した研究成果を出す予定である。
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Research Products
(1 results)