2023 Fiscal Year Research-status Report
謡本出版揺籃期における書肆の活動と謡本伝播をめぐる研究
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20K00349
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
伊海 孝充 法政大学, 文学部, 教授 (30409354)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 能楽 / 謡本 / 書誌学 / 出版史 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、江戸時代初期に刊行された代表的な観世流謡本整版本の一つ「寛永中本」の詞章系統の再考を行なった。 寛永中本は、従来の研究では本文が玉屋謡本系統、節付が元和卯月本系統と把握されてきた。しかし、これまでの私の研究によって、整版玉屋謡本系統という系統の存在自体に疑問が生じた。今年度の研究では、寛永中本の詞章の特質を詳細に分析することによって、江戸初期観世流謡本の詞章系統の捉え方を再考することを試みた。 まず、本文については、従来言われていたように光悦謡本と元和卯月本の間には大きな断絶がないこと、光悦謡本と元和卯月本の「中間的」といえる特徴をもつ謡本は玉屋謡本以外にも複数存在し、それらを「玉屋謡本系」と括ることができないこと、謡本ごとに本文系統を説明することは不可能であり、所収曲によって個性があることを指摘した。さらに、本文の異同はワキの台詞に集中していることなども明らかになった。 次に、節付については、先行研究が指摘するように、元和卯月本系統と思える曲が確かに多い。しかし、元和卯月本の節付をそのまま写したわけではない、という点が重要であった。どの曲においても光悦謡本と同じ節付が混在し、曲によってはむしろ光悦謡本に近い節付をもっていた。また、どういった箇所が光悦謡本・元和卯月本に近いかなど、傾向があるわけでもなく、曲ごとに節付の特徴が異なるのである。さらに本文の系統と節付の系統が重なり合うわけでもないことが明らかになった。 このように謡本ごとの詞章系統を分析すると、寛永中本のような謡本が制作されたとき、版本の中に明確な底本が存在しないということが重要である。謡本は謡の稽古をするための本である。謡本写本は、その所持者の稽古の痕跡が残されている。それは版本でも同じであり、写本としての謡本の特徴を継承しているという、謡本研究における新視点を提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍の影響で、研究がだいぶ遅れていたが、今年度はその遅れをだいぶ取り戻すことができ、本研究の中心的な課題であった寛永中本の分析は、ほぼ終了した。ただし、書肆の関係という難題が残された。また、寛永中本と同時代に刊行された謡本の研究を2024年度に継続して行なう。
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Strategy for Future Research Activity |
大きく分けて2つの研究を進めていく。 一つは、謡本刊行に関わった書肆の研究である。書肆自体の資料が不足しているので、謡本以外の刊行物を分析し、書肆と謡本の関係を考察していく。 もう一つは、観世身愛の節付を写したと謳う謡本の研究である。寛永中本の研究はほぼ終了したので、寛永卯月本・黒雪正本・寛永十年三月刊五番綴青表紙小本を中心に分析する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍を過ぎたのち、調査出張に行く予定を立てていたが、校務で役職についてしまったため、研究にあてられる時間がかなり制限されてしまった。2024年度は調査に行く機関をしぼり、行かれない機関の資料については、写真撮影・複写を依頼しており、校務の状況に関わらず、研究が進められる予定である。
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Research Products
(1 results)