2022 Fiscal Year Research-status Report
A Comprehensive Study on Globalization and Transformation of Japanese Literature: In Relation to Soft Power during the Cold War
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20K00350
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
志賀 賢子 (川崎賢子) 立教大学, 文学部, 特定課題研究員 (40628046)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 日本近代文学 / 文化冷戦 / アダプテーション / 大衆文学 / 越境 / インテリジェンス(情報戦) / 広報外交 / 引揚 |
Outline of Annual Research Achievements |
概ね順調に研究を進めている。 国外における調査研究はコロナ禍により叶わなかったが、それを補うべく、国内における調査を進めた。デジタルアーカイブからの資料の取り寄せ、国会図書館における調査、地方における出張調査が主たる内容である。地方における出張調査については特に、文化冷戦期における引揚者の動向に注目し、引揚港となった舞鶴、博多、佐世保の記念施設、アーカイブを訪問して資料収集、調査を行なった。冷戦期の変容を特徴的に示す都市拠点としては、東京・京都(および舞鶴)・大阪・神戸の地方新聞地方雑誌メディアを掘り起こし、言説と表象の集積を行った。米国メリーランド大学所蔵プランゲ文庫の細目を調査するために、20世紀メディア情報データベースを用いて、中央文壇や文芸ジャーナリズムだけではなく、ローカリズムとグローバリズムを架橋する文学事象をピックアップすることを心がけた。また、文学と映画、演劇のジャンル横断的な動向についての調査をも進めた。 具体的な成果としては、ロックフェラー財団の招聘により渡米した文学者、大岡昇平と演劇・映画のアダプテーションの研究をまとめ、また大岡昇平による文化冷戦期の大衆文学言説を批判的に検証した。前者については、分担執筆『文学研究の扉を開く 基礎と発展』に、「インターテクスチュアリティとアダプテーション:言説のネットワーク 大岡昇平『武蔵野夫人』」としてまとめた。後者については、フランスにおける日本近代文学研究グループのワークショップRELIJAMにて「戦後占領期から冷戦機にかけての「大衆文学」研究の現状と課題(久生十蘭から松本清張まで)」として報告した。特に、この研究を通じて、フランスの日本近代文学研究者とのネットワークができたことは大きな収穫であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍が長引き、また円安等の経済的な事情もあり、なかなか、海外のアーカイブを訪問しての調査研究が行えなかったことは、残念な要因であった。それをいかに補うかということを考え、国内におけるアーカイブ調査、国会図書館等の調査、地方における引揚資料・戦後復興資料の調査などにシフトせざるを得なかったが、それについては満足のいかない点も少なくなかった。 しかしながら、国内における研究調査のまとめとして、文化冷戦期の都市(地方都市)表象を、コンタクトゾーンとして読解分析すること、文学・演劇・映画のジャンル越境の試みをアダプテーションとして考察すること、ロックフェラー財団に招聘された文学者による戦後占領期・文化冷戦期の大衆文学言説を再検討することなど、新たな知見を得て、研究を深化させることができたと自負している。 特に今年度の論文執筆、学会報告で焦点を当てた大岡昇平については、ロックフェラー財団の招聘による渡米、渡欧体験を経て、占領に関する言説に揺れが生じているのではないか、検閲の内面化が指摘できるのではないか、など、先行研究にない視角からの分析ができた。また、それについて、国内での論文発表に加えて、RELIJAM(フランスにおける日本近代文学研究者の会)に招かれ、パリ・シテ大学における近著を語る報告会、イナルコの「2023年、日本文学研究の現在と世界の視野」における「戦後占領期から冷戦期にかけての「大衆文学」研究の現状と課題(久生十蘭から松本清張まで)」と題しての研究発表は、大きな収穫であった。また、オーストラリアの日本研究学会誌に占領期映画『青い山脈』と戦後民主主義についての論文Girls (and Boys) Debating Democracy in Aoi Sanmyakuが採択された(英文)。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度が最終年度となった。その過半をコロナ禍にあって、米国での現地アーカイブ調査がなかなか進まないことは、次期プロジェクトの大きな宿題となる。できる限り、デジタル・アーカイブを活用して、米国の資料を入手しつつ、国内のアーカイブ、国会図書館県憲政資料室を利用して、資料収集に努める。 研究推進の方向性としては、1、ローカリズムとグローバリズムの架橋、2、コンタクト・ゾーンとしての都市と文学、3、文化冷戦期の国際交流(民間・広報外交)と日本文学の国際化の関連、4、文学・映画・演劇のジャンル越境とアダプテーションの分析といった柱を立てて進めたい。 具体的には、国内における学際的かつ国際的な共同研究の場として20世紀メディア研究所(早稲田大学)の月例の研究会・シンポジウムの運営を進める。上記の1と2については、引き続き、東京中央の動向にとどまらず、引揚港・地方都市におけるメディアと文学についての調査を進める。上記の3については、貫戦期(日中戦争/アジア・太平洋戦争/GHQ占領期/冷戦期)を連続的に見通す視角から、文学者・知識人の留学(財団等による招聘を含む)とその成果について分析を進める。ロックフェラー財団、フォード財団、アジア財団の、文化冷戦期における日本文学、日本の知識人への働きかけの研究は、文学の隣接分野の研究も進みつつあり、それにも学び、意見交換を図りたい。特に考察を深めたいのは、日本型のモダニズムの貫戦期における連続と断絶についてである。中央の検閲、メディア政策に即した文学史観にあって、戦前のモダニズム文学は国策に迎合して断絶したと一義的に語られがちであるが、占領期・文化冷戦期のモダニズムには、戦前のモダニズムとの連続性が見出せないものかどうか。この問いにある程度の解答を出したいと考えている。
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Causes of Carryover |
執行締切後の出張があったため。実質的には年度内に執行している。
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Research Products
(9 results)