2022 Fiscal Year Research-status Report
美女と戦争――抗戦期中国の通俗小説に見る民衆の嗜好
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20K00364
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
杉村 安幾子 日本女子大学, 文学部, 教授 (50334793)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 戦争 / 美女表象 / 通俗小説 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中国現代文学において通俗小説の女性主人公がほぼ必ず「美女」であり、更にその美女が決まって悲劇的運命を担わされている点に着目し、1940年代の「現代通俗作家」の二大作家である徐クと無名氏の作品分析を通して、美女表象、民衆と戦争・政治の問題を分析・考察するものである。 本年度は本研究の主軸となる二作家徐ク・無名氏ではなく、五四作家として活躍した楊振声の短篇小説「荒島上的故事(無人島の物語)」(1943)を研究対象とし、論文「楊振声『荒島上的故事』における自死する少女」(『日本女子大学文学部紀要』72号)を執筆・発表した。 一般に楊振声の作品は通俗小説とは見なされておらず、「荒島上的故事」の主題や創作意図も徐ク・無名氏とは大きく異なるが、戦争と美女の悲壮な運命が描かれている点において、徐ク・無名氏の作品と共通している。しかし、「荒島上的故事」において美女の壮絶な自死には英雄的精神が託され、それによって作品発表当時の読者の愛国心・民族意識を強く鼓舞する狙いが見て取れる。 その結果、楊振声の作品を補助線としたことで、徐ク・無名氏の作品分析にも大きな助けとなった。即ち、徐ク・無名氏の作品中の美女たちの死も、男性或いは男性が象徴する家父長制の犠牲であったり、卑劣な敵の手にかかった悲惨な運命として描かれたものと、愛国・民族のために自ら選択した結果として描かれたものとに明確に大別される。 しかし、そこには依然としてジェンダー化された視点がある。徐ク・無名氏作品の美女たちに課された死を詳細に分析考察し、愛国や民族といった大義名分に隠されたジェンダー的視点を追うことを今後の研究の方向性としたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度も中国・台湾・香港など、徐ク・無名氏に関する資料が豊富にある国や地域への出張が叶わず、資料収集による新たな知見の入手が不可能であった。既に入手済みの資料から得られた知見に貴重なものもあるが、当初想定していた成果にはつなげられていないというのが現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は中国・台湾・香港へ出張し、資料収集を行いたい。特に日本からの購入が困難な作品・資料の入手を目指す。その上で本研究の総括を行う。徐ク・無名氏を中心とした中国現代通俗小説に見られるプロット、人物造型上の特徴などを分類し、1940年代中国通俗小説論としてまとめることを目標とする。
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Causes of Carryover |
申請時点では外国出張を計画に入れていたが、全く想定していなかったコロナウイルス感染症の世界規模での拡大のため、2020年からの3年間は全く外国への出張ができなかった。日本国内でも可能な資料収集に努めて研究に取り組んだが、限界があった。2023年度は中国・台湾・香港を出張先候補として可能な地域へ出張し、また最新の資料などを入手して研究成果につなげたいと考える。
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Research Products
(2 results)