2020 Fiscal Year Research-status Report
Study on Religious Literature in Early Modern China :Mainly about Baojuan or Precious Scrolls
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20K00378
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Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
松家 裕子 追手門学院大学, 基盤教育機構, 教授 (20215396)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小南 一郎 公益財団法人泉屋博古館, 学芸課(本館), 名誉館長 (50027554)
磯部 祐子 富山大学, 大学本部, 理事・副学長 (00161696)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 宝巻 / 宣巻 / 語りもの / 浙江 / 目連 / 免災 / 民間信仰 / 中国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、中国近世の宗教文藝について、その中心となる、文学の一ジャンル「宝巻」と宝巻をうたい語る藝能であり宗教儀礼であるところの「宣巻」を主たる対象として、調査と考察を行なっている。われわれグループは、この分野の研究を2008年度以来継続して行なってきたが、2020年度からはじまった本研究は、とくに目的を「時代、地域、種別、作品ごとにばらばらに研究されてきた宝巻・宣巻を、相互に関連づけること」と定めている。 科学研究費申請時(2019年10月)、本研究の年度別の計画を、(1)実地調査(フィールドワーク)、(2)文献調査1:一次資料、(3)文献調査2:先行研究に分けて記した。ここでは、その申請時の記述にそって、2020年度の成果の概要を説明する。 (1)実地調査は、疫病流行のために行なうことができなかった。このような状況の中、磯部が新しい手法として、インターネットを用いて、中国の語りもの藝能に新型コロナウイルス感染防止の広報のための作品が多く生まれていることを見出だし、これまで調査してきた浙江省の温州鼓詞・金華道情の作品をはじめとし、それらの翻訳と分析・考察を行なった(論文「浙江省における新型コロナウイルス禍下の曲芸」)。これは、本研究の2020年度の目に見える最大の成果となった。(2)文献調査1:一次資料については、小南が目連にかかわる宝巻、磯部が上記藝能のテキスト、松家が『英台宝巻』・『惜穀宝巻』など、テキストを読み進めた。この成果は、小南が口頭発表「目連戯 ―舞台上の活化石―」として公表し、また磯部が上記論文、松家が論文「《惜穀宝巻》―一部晩清宝巻的文本和態度―」として、それぞれまとめ、公表を待っている段階である。(3)文献調査2:先行研究は、各自、中国、日本、そして欧米の宝巻その周辺分野の研究成果を読み進め、それぞれの研究の展開のために生かした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、文献調査と実地調査によって進めることを手法上の特徴としている。 2020年度、いうまでもなく疫病の世界的流行により、中国へ行って実地調査ができないことが、研究遂行上の最大の困難となった。 実地調査を行なうことができない不足は、文献調査によって行なった。また、磯部は、「研究実績の概要」で示したように、いままさに行なわれている藝能について、インターネット上の情報を生かして研究を行ない、その成果をまとめた。インターネット上の情報は真偽の弁別など扱いは簡単ではない。当該の藝能の研究を蓄積してきた磯部ならでは成果といってよいだろう。 したがって、進捗状況を「おおむね順調」とすることも可能かと考えた。しかしながら、本研究は、文献調査と実地調査の両方を重視し、その成果を相互に参照することに特徴がある。あえて、「やや遅れている」としたのは、実地調査重視の姿勢を再確認する意味がある。
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Strategy for Future Research Activity |
まず第一に、中国で実地調査を行なうことのできる日が一日も早く来ることを強く願う。小南が再三述べているように、われわれの実地調査は、年に数回、数日ずつ行なうもので、フィールドワークと呼ぶには不足の多いものかもしれない。しかし、たった一度、たった一日の調査でも、得られる情報は多く、またその情報はしばしば研究上の高い価値をもつ。さらに、質の高い藝能の担い手が高齢化していることも、実地調査早期再開を切望する大きな理由である。 一方で、現況にあって、実地調査の不足を補う方法を模索する必要を感じる。磯部がすでに、インターネットをつかって情報収集する方式を開始し、成果をおさめている。 インターネットをつかった研究方法の摸索という点では、疫病の流行によりじっさいに会うことは遠のく一方、海外の研究者とオンラインで交流することはますます身近になっており、これを生かしたいと考えている。本研究は、「時代、地域、種別、作品ごとにばらばらに研究されてきた宝巻・宣巻を、相互に関連づけること」を目的としており、そのためにはより高次の視座を獲得する必要がある。そのために、中国はもちろんであるが、とりわけ欧米のすぐれた研究者と交流を活発に行なうことを計画している。 文献調査については、従前の方法で、テキストの丁寧な読み解きを中心に進めると同時に、上記目的のために多くの研究成果、とりわけ欧米の先行研究を多く読みたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2020年度、新型コロナウイルスによる感染症蔓延のため、中国へ実地調査に赴くことができず、また調査や交流のために海外の他の地域に行くこともかなわなかった。そのために、多額の次年度使用額が生じた。 したがって、これらの資金は、中国における実地調査および海外の他の地域における調査や研究上の交流のために使用する予定である。
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