2021 Fiscal Year Research-status Report
Investigation into the old photographs of the Dunhuang manuscripts kept in Japan
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20K00379
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
高田 時雄 関西大学, 東西学術研究所, 委嘱研究員 (60150249)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 敦煌遺書 / 老照片 / 学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、コロナ禍のため予定していた大正大学(矢吹慶輝将来写真)及び龍谷大学(久能芳隆将来写真)における「老照片」の調査が、これら図書館が学外者の利用を制限していたため、実施することができなかった。 そのため前年の調査で得た佛教大学写宗教文化ミュージアム所蔵の矢吹慶輝将来写真及び矢吹宛の書簡、関西大学内藤文庫所蔵の内藤ミッショッンが将来した写真、京都大学人文科学研究所に保存される明治43年京都大学の五名教官による北京訪書時の撮影写真、さらに自身が所蔵する羽田亨将来写真のそれぞれについて、現在の所蔵機関における編号と対照しつつ、テキストの異同の有無を調査した。 これらの「老照片」はすべて大正期以前の撮影に係るもので、敦煌遺書の写真としては現存するなかでも相当に古いものに属する。とりわけ人文科学研究所のそれは北京において明治四十三年(1910)に撮影されたもので、確認される限り現存最古の写真である。これら「老照片」を現在の写本の状態と比較することは、修復以前の状態を推測確認する上で非常に重要な素材を提供する。 同時にこれらの「老照片」を敦煌学史の中に位置づけるべく、矢吹や、内藤、羽田が写真を将来した経緯につき、文献や書簡などを精査するこことで、当時の撮影の背景を窺知することができたのは幸いであった。これまでに得られた知見に基づき、シンポジウム等で研究発表をおこなうとともに、論文を執筆して公刊した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の開始当初において知られていた敦煌遺書「老照片」について、過去二カ年の間に佛教大学宗教文化ミュージアム、関西大学内藤文庫、京都大学人文科学研究所の所蔵資料及び自家所蔵の羽田亨将来写真については、首尾よく「老照片」のデジタル撮影とその目録化を達成することができたものの、コロナ禍の状況下で大正大学に所蔵される矢吹慶輝将来の白写真、龍谷大学に所蔵される「久能芳隆氏撮影西域出土文獻寫眞帖」については、今年度はついに調査を遂げることができなかった。また東洋文庫に所蔵される「老照片」についても同じく来年度に先送りすることになったのは、はなはだ遺憾ではあるが何如ともしがたい。また当初、東北大学や九州大学にも「老照片」の存在を予想して調査する予定であったが、これも叶わなかった。ただ「老照片」の研究は要するに敦煌遺書研究史の一部をなすものであり、研究資料として写真を獲得するために先人が行った調査旅行の具体的な状況を、文献や書簡等を資料として解明することに、研究の主眼を若干スライドさせていくことが、現下の情勢に鑑みてより效果的ではないかと考えるようになった。したがって「老照片」の調査をまったく放棄するわけではないが、今後はこういった敦煌学の先人たちの行動を跡づけることに重点を移したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
7.現在までの進捗状況でも触れたとおり、今後は主として先達によるヨーロッパにおける敦煌遺書の調査、それにはもちろん写真撮影の経緯も含まれるが、この方向に重点を移していきたいと考えている。コロナ禍という予期せざる障害を克服しつつ、それを乗りこえて敦煌学史研究に新しい展望を見いだすことが重要である。幸いに関西大学の内藤文庫、大阪大学の石濱文庫には、内藤湖南及び石濱純太郎に宛てた同時代の学者たちの書簡が大量に残されており、それらを援用することによって「老照片」をめぐる活動の具体的な実相を解明することができると考えている。たとえば神田喜一郎や那波利貞、玉井是博などの後輩学者がヨーロッパ渡航中およびその前後に内藤湖南に宛てた書簡からは、彼らの訪書旅行が細かく報告されているので、是非ともそれらを活用したいと考えている。また神田喜一郎の石濱純太郎に宛てた書簡からも、神田のヨーロッパ訪書行についてこれまで知られなかった事実が明らかになると予想できる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が発生した事由は、主としてコロナ禍によって国内外の調査旅行が行えなかったことによる。そのためにこれらの調査旅行を次年度において行うべく計画中である。
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Research Products
(3 results)