2022 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半の中国映画が果たした政治的役割:制作と受容の連動関係からの再考
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20K00380
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
菅原 慶乃 関西大学, 文学部, 教授 (30411490)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 映画説明 / 公共圏 / 映画観客 / 映画館プログラム / 映画上映 |
Outline of Annual Research Achievements |
コロナ禍による資料収集の長期に渡る制約を受けて、当初20世紀前半に焦点を当てていた本研究の視座を20世紀後半へ拡大し、20世紀全般を見渡す視座から政治宣伝メディアとしての中国映画の特性を解明する方向へと方針を変更した。特に、多様な形態の「映画説明」を、映画制作者と映画観客の間を媒介する重要なメディアとしてとらえ、その実像を明らかにすることに重点を置いた。 中国における幻灯・映画上映では、早くより文字や口頭によるさまざまな映画説明が定着していた。映画説明は、多様な文化・教養の背景を持つ観客たちが映画を理解するために不可欠であっただけでなく、映画説明を通じて均質的な価値観を有する公共圏が形成された。この公共圏は次第に国家へと回収され、映画界における反帝国ナショナリズム運動の推進を促進した。他方で、20世紀の後半には、上映現場の状況に臨機応変に対応する形式の映画説明が定着したが、それはしばしば映画製作者の演出意図を無効化し独自の意議を与えるような事例も散見されるようになった。このように、映画上映の実践の過程で形成された公共圏が国家とどのような関係をとりむすんだか、という点についてシンポジウムで発表し、論文にまとめた。 資料収集の新たな対象として、関西大学デジタルアーカイブで公開準備中の私蔵資料のうち中国の映画説明書約200点についてメタデータを整理し、これらの史料の中国近現代史研究における利活用について検討を重ねた。2月には、この領域における第一人者である晏妮氏(日本映画大学)、邵迎建氏(東洋文庫)と対面にて資料の保管状況、保管方法、及び相互利用の方法について情報交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海外における資料収集を断念せざるを得ない状況にあって、当初研究対象に含めなかった20世紀後半の映画受容の状況へと視野を広げたことにより、映画の制作と受容の相互関係の解明という本研究の課題をより包括的に分析することが可能となった。 研究成果の公開状況については流動的な状況である。昨年執筆し査読にも通った論文が編集業務上の問題により未だ公開されていないという問題がある一方で、本課題に関連するエッセイを一般向けの書籍・雑誌で公開する機会を得ることができ、研究成果を広く社会に還元することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究を通じて、映画観客文化研究を遂行する上で従前注目されてこなかった映画説明書や特刊などの印刷メディアの重要性が一層明確となった。最終年度は、研究資料としての観客メディアが果たした役割について実証的に検証する。 2022年度に研究代表者が私蔵する上海を中心とした映画館プログラム印刷メディア200点ほどの基本的なメタデータを整理したのに続き、最終年度においても特刊などを含めた私蔵資料数百点についてもメタデータの整理、入力を実施する。最終的にこれらのデータはウェブ上で公開し、隣接領域で関連する研究を遂行している研究者コミュニティにたいして公開する。同時に、共同利用を基礎とした新たな研究プログラムを設計し、新科研に応募する準備とする。
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