2021 Fiscal Year Research-status Report
Mark Twain's Criticism in His Last Years: Using the Weapon of Laughter and Beyond
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20K00381
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
井川 眞砂 東北大学, 国際文化研究科, 名誉教授 (30104730)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 19-20世紀転換期アメリカ / マーク・トウェイン / 『マーク・トウェイン自伝』 / ホイッティア70歳誕生祝賀スピーチ事件 / ボストン・ブラーミン / 文化ヒエラルキー / アメリカのユーモア |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題「マーク・トウェイン晩年の批評精神――まなざしは<笑いの武器>のその先へ」は、トウェイン晩年期研究の一環であり、トウェインがユーモアのレトリックを<笑いの武器>として行使後、そのレトリックをさらにいかに活用するかを探ろうとする。
今や自身も70歳を迎えたマーク・トウェインは、1906年1月、読者からの1通の手紙に触発され、封印していた28年前のホイッティア70歳誕生祝賀スピーチ事件を振り返る。当時新聞を騒がせたその事件とは、アメリカの高名な詩人3人を戯画化した彼のスピーチが社会的な衝撃を与えた出来事を指す。エマソン、ロングフェロー、オリヴァー・W・ホームズといった神々しいばかりの詩人たちを冒涜したと見做され、それによって苦痛と屈辱を味わい、彼はスピーチの失敗を悔やんだ。この出来事はトウェインの作家人生にきわめて大きな衝撃を与えたと思われる。 事件後3詩人に詫び状を書いたことによって一件落着したかに見えたのだが、じつは以後も本件は彼に付き纏った。もちろんそれに屈したわけではないものの、不明な部分を残すこの事件に70歳のいまあらためて立ち向かい、再吟味を始めるのである。その結果、スピーチ原稿そのものは「才気があり」、「ユーモアたっぷりであって」「無作法あるいは粗野」には当たらず、そこに落ち度があるとは思えないことを確認する。つまり、アメリカ東部文学界に当時なおも君臨したボストン・ブラーミンの権威に「揺さぶり」をかけた自身の西部的姿勢を問題なしと判断するのである。トウェイン本来のこの能動の立ち位置こそが、おのれの作家人生を振り返る『マーク・トウェイン自伝』の晩年の批評精神と言えるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の実施計画から見れば、やや遅れている。 本課題の副題とする「まなざしは<笑いの武器>のその先へ」の領域までは届いていないからである。それというのも、トウェインが彼のユーモアのレトリックを如何に活用するかの点で、1877年のホイッティア70歳誕生祝賀スピーチ事件を考察対象に取り上げたことによって、その検討に思いのほか時間を要したためである。ただし「ホイッティア70歳誕生祝賀スピーチ事件をどう見るか」についてほぼ纏めることができ、2022年度中の論文投稿予定である限りにおいては救いである。 やや遅れてはいるものの、トウェインのユーモアを晩年期のみならず、その出発時からの見直しによって「19世紀アメリカの文学的コメディアンの影響」(David E. E.Slone)を確認できた収穫や、1877年のホイッティア70歳誕生祝賀スピーチ事件の見直しによっておのれの作家人生を振り返る著者を『マーク・トウェイン自伝』を通して彼のユーモアの観点から深められた収穫は大きいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、「ホイッティア70歳誕生祝賀スピーチ事件をどう見るか――『マーク・トウェイン自伝』における著者晩年の批評精神」を脱稿、2022年度中に予定している研究所紀要に投稿する。 ついで、バフチンのカーニバル論を適用した"The Man That Corrupted Hadleyburg"論を、 「ホイッティア70歳誕生祝賀スピーチ事件をどう見るか」論との関連で再考し、手直す予定である。2022年度中に論文に纏めたい。それによって、本研究課題にどこまでも接近させたいと考えている。
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Causes of Carryover |
主要には旅費の全額が未使用だったためである。コロナ禍でマーク・トウェイン国際会議(Elmira 2021、アメリカ合衆国ニューヨーク州)が中止(1年延期)になり、外国旅費の未使用。さらには国内の学会全国大会(日本英文学会、日本アメリカ文学会、日本マーク・トウェイン協会等)ならびにマーク・トウェイン『自伝』読書会他、そのほとんどがオンライン開催になったためである。 次年度は、国際会議を始めとして、そのうちいくつかは開催される予定であるため、その旅費に充てたい。ただし、引き続きオンライン開催になるものはあるだろう。したがって、実施可能な機関での資料収集や感染予防のなされた会合への出席に充てたい。残余は、引き続き研究図書等物品費他に使用予定である。
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Research Products
(2 results)