2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K00382
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
佐藤 清人 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (80178722)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日系アメリカ人 / 強制収容 / 写真花嫁 / Julie Otsuka / Cynthia Kadohata / David Mura |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度においては日系アメリカ人三世の小説家Julie Otsukaの作品分析を行い、その成果を「断片的な物語―Julie Otsukaの小説―」というタイトルで「人文社会科学部研究年報」第18号(令和3年3月)に掲載した。 この論文では、Julie Otsukaの2つの作品When the Emperor Was DivineとThe Buddha in the Atticを取り上げた。前者の物語でOtsukaは、太平洋戦争中に強制収容されたある日系アメリカ人家族の姿を描き、後者では、日系アメリカ人一世の女性、「写真花嫁」という呼び名で知られる女性たちが米国に渡り、家族を成し、やがて強制収容されていく姿を描いている。 これら2つの作品は、日系アメリカ人作家の描く物語の定番ともいうべき「写真花嫁」と「強制収容」をテーマとしているが、その物語の内容や展開には、新鮮味がほとんどなく、一世や二世がこれまで語ってきた物語の繰り返しでしかない。 しかし、その語りの手法に目を転じると、内容の平凡さとは逆に極めて特異な手法が使われていることが分かる。作品が進むたびに物語の中心人物が変わったり、語り手が三人称から一人称に転じたり、合唱するかのように一人称複数で語ったりという具合に、風変わりな手法が使われている。しかし、こうした語りの手法は新奇ではあるが、効果的とは言い難く、物語の凡庸さを埋め合わせるほどの効果を発揮してはいない。 Otsukaの作品は多数の言語に翻訳され、諸外国においては高評価を得ているが、日系アメリカ人の歴史や文学に通暁している読者にとっては物足りない作品となっている。この論文では、何故このような結果に至ったのか、その原因を探った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、日系アメリカ人三世作家の描く「強制収容」物語と日系アメリカ人二世の描く「強制収容」物語を比較し、両者の影響や反動の関係を明らかにすることである。具体的には、Julie Otsuka、Cynthia Kadohata、David Muraなど日系アメリカ人三世の作品を一世や二世の著作物と比較してその影響関係を探ると同時に、三世作家独自の新たな展開を発見し、明確にすることである。 3年の研究期間の1年目にあたる令和2年度においてはJulie Otsukaの作品に焦点を絞って作品分析を行う予定であった。「研究実績の概要」に記載したように、令和2年度においては、「断片的な物語―Julie Otsukaの小説―」というタイトルの論文を「人文社会科学部研究年報」第18号(令和3年3月)に掲載した。この論文では、Julie Otsukaの2つの作品When the Emperor Was DivineとThe Buddha in the Atticについて作品分析を行い、Otsukaの作品が語りの方法においては斬新な手法を見せながらも、物語の内容においては、これまで一世や二世の人々が写真花嫁や強制収容について描いてきた内容を反復するばかりで、新たな物語の生成には至らなかったことを明らかにした。 今後の研究計画については、研究2年目に当たる令和3年度においてはCynthia KadohataとYoshiko Uchidaの作品の比較研究を予定し、3年目の令和4年度においてはDavid Muraの小説を中心に分析する予定である。令和2年度においては、Julie Otsukaの作品分析を論文にまとめることができたので、当初の研究計画の3分の1は達成できたと思われる。したがって、研究の進捗状況としては、当初の計画通りに進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
3年の研究期間の2年目にあたる令和3年度の研究対象は日系アメリカ人三世Cynthia Kadohataの小説Weedflowerと日系アメリカ人二世Yoshiko UchidaのJourney to Topazの比較研究である。両者はどちらも少女を主人公とした「強制収容」物語であり、Kadohataは彼女の小説を執筆する上でUchidaの小説を参考とし、多くの影響を受けたものと思われる。また、日系アメリカ人二世Jeannne Wakatsuki Houstonの自伝作品Farewell to Manzanarも比較すべき対象となるかもしれない。Houstonの作品は自伝だが、語り手はKadohataやUchidaの作品の主人公とほぼ同年齢であり、物語が少女の視点から描かれている点では、共通性があるからである。 研究期間の3年目になる令和4年度の主な研究対象はDavid MuraのFamous Suicides of the Japanese Empireであるが、この作品に加えてPerry Miyakeの21st Century ManzanarとDale FurutaniのDeath in Little Tokyoも研究対象としたい。これらの作品は太平洋戦争時の強制収容を直接的に描くことはしていない。時代背景を現代に設定しながら、現代と強制収容との関わりを描いている。Julie Otsukaの描いた強制収容や写真花嫁の物語は一世や二世が描いた物語とほとんど変わりがなかったが、MuraやMiyakeの物語は強制収容の物語それ自体を描くのではなく、現代と強制収容の関係を追求し、人種差別の問題をより深く掘り下げている。それは一世や二世の作家に不可能であった試みであり、大きな意義を持つとともに、日系アメリカ文学の未来に新たな展望と可能性を開くものである。
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Causes of Carryover |
令和2年度に発注した物品(書籍)が年度内に納入されなかったことによる。令和3年度内に納入されれば、3年度に使用可能である。仮に受注者側の何らかの理由で納入されなかった場合には、他の物品(書籍)に置き代えて使用する予定である。
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Research Products
(2 results)