2020 Fiscal Year Research-status Report
ハーレム・ルネサンス前期におけるアフリカ系アメリカ文学――詩、小説、演劇
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20K00395
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
奥田 暁代 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (40296736)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アフリカ系アメリカ文学 / 世紀転換期アメリカ文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ハーレム・ルネサンス前期(Pre-Harlem Renaissance)のアフリカ系アメリカ人作家をあらためてアメリカ文学史上に位置づけることによって、この時代の小説・詩・演劇の再考を試みるものである。具体的には、まず、アフリカ系アメリカ文学の流れ、とくに南北戦争前後のアンテベラム期からポストベラム期への継続性、そして世紀転換期からハーレム・ルネサンス期への連続性、を明らかにし、そのうえで、広くアメリカ文化のなかにこれらアフリカ系アメリカ人作家を位置づけ、これまで語られることが少なかった、人種を越えた関りの実態を示すことを目指している。 平成29年度に国際学会で行った口頭発表では、詩人で雑誌編集者でもあったジェイムズ・E・マッガートの作品や出版活動について文化史的な視点から読み解くことを試み、南部という「排他的」かつ「閉鎖的」と語られてきた地域に拠点を置くアフリカ系アメリカ人作家の可動性と多様性を明らかにした。この研究報告をもとに執筆した論文を、海外の学術誌に投稿している。平成31年度に、黒人紙の人気コラムニストで小説家でもあったジョン・E・ブルースを中心に据え、世紀転換期のアフリカ系アメリカ人作家たちの広汎なネットワークと作品の考察を進め、その成果を国際学会で発表した。この報告をもとに、ブルースからさらに劇作の共著者であるヘンリエッタ・デイヴィスにも対象を広げ、文化的に不毛とされてきた時代のアフリカ系アメリカ人の活動を、音楽や歴史、演劇まで多岐にわたるものとして明らかにし、その論考は『ハーレム・ルネサンス』(2021年刊行予定)に収録された。さらに、詩人・小説家のアリス・ダンバー=ネルソンの半世紀にわたる創作活動を、世紀転換期に多くの女性が参加した文芸クラブと、白人出版代理人との関係に着目し分析した論考は、令和3年開催の国際学会の口頭発表に採択されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度はコロナ禍にあったため、予定していた資料収集や学会発表など渡航を伴う活動が行えなかった。11月に開催の国際学会(American Studies Association)の年次大会において、アリス・ダンバー=ネルソンと作家のネットワークに関する口頭発表を行う予定だったが、大会が中止となった。あらためて2021年度の年次大会にプロポーザルを提出し、採択された(発表タイトル:"Managed Creativity: Alice Dunbar-Nelson's Navigation of the Publishing World’s Racial and Gender Politics")。 ジェームズ・E・マッガートの詩、演劇、音楽に着目し、アフリカ系アメリカ文化創出を意識しつつ、白人読者・白人聴衆に発信を続け、南部のイメージ修正を図ったことを明らかにした論文("Periodical, Poetry and Performance: McGirt's Magazine, the Southern Landscape and Popular Appeals to Multiple Audiences in the Pre-Harlem Renaissance Period")を学術誌Mississippi Quarterlyに投稿する。 あらたな論考として、ポーリーン・E・ホプキンズが世紀転換期の雑誌に連載した小説に着目し、アフリカ系アメリカ人とネイティヴ・アメリカンとの関係性、その文化的交錯を考察する研究報告のプロポーザルをアメリカ歴史家協会の年次大会に提出した("Turn-of-the century African American Magazines and the Incorporation of Native American Histories")。 以上、海外渡航は叶わなかったものの、可能な範囲で研究を続けることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、10月に予定されているアメリカ学会での研究報告(プエルトリコ開催)の準備から進める。アリス・ダンバー=ネルソンについては昨年3月に資料収集を終えており、それらをもとに準備をする。また、アメリカ歴史家協会の年次大会(2022年3月31日~4月3日、ボストン開催)での研究報告が採択されれば、こちらについても準備を始める。今後も渡航が実現するか分からない状況であるため、ポーリーン・E・ホプキンズに関する資料の収集はオンラインに頼らざるを得ないだろう。国際学会に参加し、海外の研究者と交流、意見交換することは研究成果をあげるために不可欠であるが、今後はオンラインでの発表が可能となる学会へのプロポーザル提出も検討しなければならない。 また、あらたな資料収集が難しいことを考慮して、収集済みの文献の分析と論文執筆に重きを置く。ジェイムズ・E・マッガートについての論文は投稿するまでに至っているが、ほかにもこれまで研究報告をしてきた論考があり、それらを論文に仕上げ学術誌に発表することを目指す。とくに、ヘンリエッタ・デイヴィスについては、アメリカにおいてもあまり研究がなされてきておらず、デイヴィスなどの朗読家・悲劇女優の活躍を追うことで、世紀転換期の演劇・音楽の位置づけを明らかにすることができれば、重要な業績となるだろう。 これらの研究は主に英語で報告・執筆を行ってきているが、かねてから目指している、この時代の特徴を整理して一つの形にし、「ハーレム・ルネサンス前期の文学」として研究書にまとめることにも着手する予定である。渡航が叶わない場合はとくに、そのような対応にしたい。
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Causes of Carryover |
(理由) 2020年度は、11月にボルチモア(アメリカ)で開催される国際学会の年次大会に出席予定だったが、大会が中止となった。コロナ禍のため資料収集を行うこともできず、論文執筆と学会報告のためのプロポーザル執筆に専念した。その結果、予定していた外国旅費を使用せず、英文校正などの謝金を使用するのみとなった。 (使用計画) 2021年度には2度の渡航を計画している。まず、10月7日から10日にかけてサンファン(プエルトリコ)で開催予定のアメリカ学会年次大会において研究報告を行う。プロポーザルが採択されれば、2022年3月31日から4月3日にかけてボストン(アメリカ)で開催されるアメリカ歴史家協会(Organization of American Historians)の年次大会にも参加することになり、渡航費が必要となる。国際大会での発表のため、英文校正費用も必要となる。不採択の場合には、予定していたアメリカ議会図書館(ワシントンDC)での資料収集を実行する。
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Research Products
(1 results)