2020 Fiscal Year Research-status Report
Afrofuturismとは何か?-英語圏黒人思弁文学における人種と未来像
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20K00400
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
岡島 慶 日本大学, 経済学部, 准教授 (10710569)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 黒人文学 / Afrofuturism / black humanity / Octavia Butler |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画では、黒人民衆を排除してきた西洋社会中心の科学技術文化論を基盤とするヒューマニズムについての文献を精査する予定であった。さらに、「人種」というテーマから西洋中心主義的なヒューマニズムの問題点を看破するAfrofuturismについての理論的知識を深めていく計画を立てた。まず、前者についてRosi BraidottiやPramod K. Nayarなどいくつか文献をあたったが、十分な理解が得られたとは言い難い。例えば、Braidottiが称揚するノマド的なポストヒューマンの在り方は、容易に自己の文化的政治的責任を放棄することに陥ってしまうのではないかという疑問が残る。こうしたいわばニヒリスティックな放棄が、西洋中心主義的な思想の着地点であると結論付けることも可能ではあるが、もう少しきちんと文献を精査する必要がある。一方で、後者のAfrofuturismの理論的知識については、研究書や論文を精査し、知見を深めることができた。とりわけ有用に思われたのは、Zakiyyah Iman Jacksonによる研究書Becoming Human: Matter and Meaning in an Antiblack World (2020)である。Jacksonが整理している通り、西洋哲学の伝統では、長らく黒人は動物化され、「完全な人間ではない」状況に置かれてきた。Jacksonによれば、黒人文学や視覚文化は、西洋哲学の「進歩的人間中心主義」の限界を示す。さらに、黒人芸術家たちは、こうした西洋中心主義的な「人間」への参入を求めるのではなく、黒人経験に基づいたオルタナティブな(人間)存在の可能性を探るという。黒人にとっての未来像の思索は、全く新しい人間存在を作り上げるダイナミックな作業であり、クリエイティブな営みの中に、西洋中心主義的な人間像の超越の可能性が存在しうるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウィルスの影響で、昨年度予定していた米国への調査旅行を断念せざるをえなかった。調査旅行で集めた資料から小説の分析に新たな要素を加える予定であったが、計画を進めることができなかった、また、コロナに付随するオンライン授業の準備などに大幅に時間とエフォートを取られてしまい、当初の計画通りに文献の精査なども進めることが困難であった。とりわけ、西洋中心主義的な(ポスト)ヒューマニズム論についての文献精読が十分にできなかった。また、予定していた学会発表がコロナの影響で延期されてしまい、研究業績をあげることが叶わなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、当初の予定としてカリフォルニア州にあるThe Huntington LibraryでOctavia Butlerの遺稿や手稿を閲覧する予定であった。また、令和2年度に計画していたニューヨーク州への調査旅行も可能であれば実現させたいが、現在のコロナウィルスの感染状況から困難であると思われる。それゆえ、デジタル・アーカイブの利用の可能性を探っていきたい。本年度は、Octavia Butlerの作品研究を中心に行っていく予定だが、昨年度十分にできなかった西洋(ポスト)ヒューマニズムの文献調査も併せて行っていきたい。さらに、昨年度延期された学会での研究発表を予定しているので、発表原稿を修正して、論文投稿を行っていく。
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Causes of Carryover |
予定していた調査旅行に行けなかったため。数冊の研究書を購入したが、業者の手違いで所属機関の基本研究費で支払いが計上されてしまった。論文はダウンロードして利用し、節約することができた。英文校正についての予定もあったが、論文執筆に遅れがあり、校正までまわすことができなかった。次年度に使用できる金額については、当初予定のなかったデジタル・アーカイブの利用や追加の研究書や一次資料の購入に充てていきたい。また、論文の英文校正やオンラインでの海外学会への参加費にも使用したい。
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