2021 Fiscal Year Research-status Report
シェイクスピアにおける2種類の歴史的言説に関する表象文化論的考察
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20K00402
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高田 康成 東京大学, 大学院総合文化研究科, 名誉教授 (10116056)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | シェイクスピア / ローマ史 / 共和政 / 暴政 / 女性原理 / 貞節 / 歴史のかたち / 政体 |
Outline of Annual Research Achievements |
「ローマ史劇」の骨格等に関して基本的な考察を行った。歴史的時間軸に沿って見れば、『コリオレイナス』、『ジュリアス・シーザー』、『アントニーとクレオパトラ』となり、各々は所謂「ローマ史」の節目、すなわち共和政を強化した護民官制度、共和政を崩し独裁者の登場、そして三頭制の混乱と帝政への序章 といった、ある意味で「発展史」の結構を見せる。 その起源に関しては、プルタルコスにおいて強調された「強姦」神話に発する要素を強調する。第一にvestal virgin貞潔な巫女の強姦から生まれたロムルスとレームスに発する王政の誕生、第二に暴政に堕した政体から共和政への浄化を象徴する貞女「ルクレティアの凌辱」神話に重きが置かれることになる。暴君タルクィニウス一族の暴挙を被った貞女ルクレティアの悲劇を唄う長詩『ルークリースの凌辱』は、凌辱の雪辱を暴政の共和制による浄化として象徴的に表現するものであり、貞節という女性原理の重要性が際立つ。 ローマ史におけるこの貞節=共和政という政体と女性原理の関係は、『コリオレイナス』においてヴァレーリアという特異な人物によって肯定的に確認され、『アントニーとクレオパトラ』のクレオパトラによって否定的に追認されることになる。 ルクレティアとヴァレーリアは、前者の夫であるコラティーヌスと後者の兄であるプブリコラが、(プルタルコスおよびリウィウスの叙述において)ともにブルートゥスを筆頭とする共和政樹立の立役者であったことから、共和政=女性原理を担う一方、コラティーヌスの影は薄く、ブルートゥスもまた後景に退く。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ローマ史劇の原点と思われる「タルクィニウス」と「ルクレティア」の両神話について、比較神話学的なより広い考察がまだ不十分である。
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Strategy for Future Research Activity |
今回(2年目)で、「2種類の歴史」の骨子はほぼ掴むことが出来たので、3年目からは両者の類似と相違を明確にすると同時に、両者の関わり方の詳細を考察して行く。その際、重要と思われるのは、関わり方の質と形を決めることになる「補助線」のような概念装置である。
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Causes of Carryover |
新型コロナの影響を受けて学会出張等が取りやめとなったため。
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