2022 Fiscal Year Research-status Report
シェイクスピアにおける2種類の歴史的言説に関する表象文化論的考察
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20K00402
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高田 康成 東京大学, 大学院総合文化研究科, 名誉教授 (10116056)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | イギリス史劇 / ローマ史劇 / 救済史 / 再生のサイクル / typology / 王権 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一年度の「イギリス史劇」、第二年度の「ローマ史劇」に関する考察を受けて、改めて「イギリス史劇」を再考した。2種の歴史観が、シェウクスピアの意識にあったことは作品に窺われるが、ともにその表現は直接的というよりはobliqueなものである。「イギリス史劇」の場合、救済史の一表現形態であるエルサレムへの巡礼というモチーフが1~2 Henry IV の背景をなすものの、エルサレムが広間の名前であるという「落ち」となる。このパロディに準ずる表現モードは、Richard II (3.4)でEdenを暗示する‘garden’の場のそれにも通じるところであり、この「遊び」と「真面目」の相半ばするモードの受け取り方を如何にするか、という俄かには解きがたいが重大な課題が出来する。ちなみに、この課題は、歴史劇をはなれて、たとえばAdamないしそれに準ずる登場人物を持つAs You Like It やComedy of Errors に関連して、所謂「聖書予表論」typologyの変容として見なければならない。しかし、この「遊び」と「真面目」の相半ばする「予表論」もどきのモードは、Henry V において解消するに至る。すなわち、変装して戦場の兵隊を見舞う王が「魂のことは王の世話をするところではない」と言うとき、もはや王権は救済史の舞台から消える運命にあった。Henry VIIIが一種心理劇的な側面を見せるのはこのためであろう。同時に、Henry Vが救済史的側面を失うのと同時に、Falstaffが亡くなるのは、偶然ではない。救済史に王権をもつ王は、カントロヴィッチの説いた「二つの身体」(body natural & body spiritual) を持つのであり、natureの祝祭的豊穣を体現するFalstaffはHenry V のalter egoたるbody naturalに他ならない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は初年度の考察(「イギリス史劇」と第二年目の考察(「ローマ史劇」)を受けて、両者の相違を念頭に置きながら、さらに「イギリス史劇」の考察を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の考察で、以下のように、さらに深めるべき点が明らかになった。 ・文化人類学に言う「汚れと浄め」のパターンが、救済史と自然の再生サイクルの間を取り持つ可能性を探る。 ・Falstaff研究の批判的活用。 ・Henry VIの考察 以上を重点的に考察を深める。
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Causes of Carryover |
コロナ感染症の影響を受けて、国内および海外出張が出来なかったことによる。したがって、今年度はこれを国内・海外旅費に当てることになる。
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