2023 Fiscal Year Research-status Report
An Integrated Study of the Background of Anglo-Saxonism Formation in the Victorian Age
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20K00403
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
金山 亮太 立命館大学, 文学部, 教授 (70224590)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アングロ・サクソニズム / サヴォイ・オペラ / ブリティッシュネス / イングリッシュネス |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は2022年度の学外研究の成果の一端を発表すべく、2本の論文を執筆した。そのうちの1本は海外の雑誌に投稿したが、一次審査に入る前に議論の問題点が審査員から指摘されたためにいったん取り下げ、今年度に再度投稿することとなった。 もう1本の論文については以下の通り。ヴィクトリア朝の大衆演劇においてブリティッシュネスとイングリッシュネスが交錯する場としてサヴォイ・オペラの初期の代表作を取り上げ、そこに見られるダブル・アイデンティティの表象について論じた単著「"Englishman"の行方―『軍艦ピナフォア号』におけるイングリッシュネス表象の混乱―」を『立命館英米文学』第32号23~46頁に掲載することができた。これは、異なる人種によって構成される連合王国において、国としてのまとまりを表現するためのグレート・ブリテンという「記号」としてのアイデンティティではなく、自身の所属するエスニシティ(民族性)への固着が優先される場面を取り上げ、それはとりもなおさずヴィクトリア朝社会において暗黙の前提となっていた、「1つの国家に2つの国民」(ベンジャミン・ディズレイリ)という階級差別が無効になったことを示すことを論じたものである。サヴォイ・オペラが今日に至るまで英語圏の国々で広く上演され受容されていることの背景に、イギリス国内ではなく海外にいるからこそ自身の民族的アイデンティティに対する意識が高まること、言い換えるならば物理的あるいは心理的な距離感(リモートネス)が民族意識への過度な感情移入に繋がり、そこでは対象がロマン化され美化されるという、研究代表者が長年考え続けてきたテーマが支持されることを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ禍はほぼ終息に向かいつつあるが、その副産物として、参考資料の出版延期や中止、海外出張の困難、さらには昨今の円高などが相まって、入手予定だった文献が手に入らず予定していた出張が果たせないなど様々な問題が起こった。その結果、研究期間の1年延長を願い出るより仕方がなかった。2023年度は辛うじて業績を1つ出せたことで少し安堵しているが、本来ならば最終年度にはまとまった研究成果を問う予定だったために残念な部分もある。1年延長によって得られた時間を有効に使い、何とか遅れを取り戻したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として目下考えているのは以下の二つである。 いったん取り下げた英語論文をブラッシュアップして再投稿を目指すことが一つ。もう一つは今年度中に論文をさらに2本執筆し、本来ならば単行本としてまとめる予定だった研究成果の核の部分を固めることである。現在の研究課題については既に論文を5本発表しており、今年度の2本を以てほぼ論ずるべき問題はカバーできると考えている。これらの原稿に序論や参考文献一覧などを加えて完成原稿にし、出版助成に応募することが最終目的となる。
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Causes of Carryover |
参考資料の出版延期や中止、国内外への出張の困難などにより研究計画を1年延長せざるを得なかったため、次年度使用可能額が約72万円残っている。昨今の急激な円高により、夏季の英国出張によってその大半は使われてしまう見込みであるが、それに見合うだけの成果をあげ、過去4年間の研究成果と合わせて単行本化したいと考えている。そのための出版費用には別途、科研費による出版助成を申請する予定である。
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Research Products
(1 results)