2022 Fiscal Year Research-status Report
On the Idea of "Literariness": Intellectual History of Literary Criticism
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20K00408
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大河内 昌 東北大学, 文学研究科, 教授 (60194114)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 批評理論 / 新批評 / 脱構築 / 唯美主義 / ポール・ド・マン / オスカー・ワイルド / モダニズム / 美学 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までにおいて本研究は、19世紀末から20世紀後半の脱構築批評までにおける「文学性」の概念を跡づけた。「文学性」の概念がもっとも洗練されたかたちで現れたのは20世紀末のアメリカの脱構築批評であった。脱構築批評は表面的には人文主義的な文学研究を批判するように見えたが、実態としては「文学性」の概念を洗練し、文学言語の自律性の観念をより精妙に練り上げる志向性をもっていた。令和4年度においては脱構築批評の代表的批評家であるポール・ド・マにおける「文学性」のあり方を、彼のカント論を例として検証した。同時に、ワーズワスの詩作品を対象として脱構築的な批評理論の有効性の射程を検証した。20世紀の批評理論における「文学性」の理論を研究することで判明したのは、文学の自律性の概念の起源が19世紀末の唯美主義にあることであった。そこで本研究はその射程を広げ、19世紀末の唯美主義を研究の射程に加えることに迫られた。令和4年度はとくに19世紀末イギリスの作家オスカー・ワイルドの批評理論を研究対象としてとり上げ、唯美主義の文学理論の特徴を解明する研究に着手した。判明したことは、芸術の自律性を主張する唯美主義は、芸術作品の商品化によって市場経済の中に投げ出された芸術家の自己防衛の戦略であったということである。20世紀に入って大学の中の学問分野として文学が成立したときに、文学研究は独立した教育分野として自らを成立させるために文学言語の自律性を主張したが、それは19世紀末の唯美主義的芸術理論に多くを負っていた。「文学性」の概念は、すべてが商品化してゆく近代の資本主義社会において、文学を独自の「価値」をもつ文化的な領域として成立させるための鍵となった概念なのである。以上のように、本研究はこれまでの研究において「文学性」の概念を、資本主義社会における文化の地位というより広い問題機制の中に位置づけることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで本研究は20世紀後半の脱構築批評に焦点を当てて、大学における文学研究という制度とのかかわりの中で「文学性」の概念を研究してきたが、昨年度はさらに射程を19世紀末にまで広げて「文学性」のルーツとなる「唯美主義」の問題に取り組むことができた。19世紀末の唯美主義は20世紀の前半のモダニズムの文学理論―とくにT. S. エリオットの伝統論―をとおして20世紀の文学理論の形成に大きな影響力をもった。20世紀の批評理論の出発点として19世紀末の唯美主義の問題を取り上げたことによって、本研究の射程は当初予想していたよりも大きく広がる結果となった。それにより、さらに大きな研究成果を生み出す見通しが立ってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
上で述べたように、本研究は20世紀末のポール・ド・マンの脱構築批評と19世紀末のオスカー・ワイルドの唯美主義批評の読解と評価を行った。これからの課題は20世紀中庸の批評における「文学性」もしくは文学の「自律性」の概念の展開を解明することである。主な研究対象となるのは、20世紀半ばのアメリカ新批評とノースロップ・フライの原型批評である。それらにおける「文学性」の概念を解明し、それを思想史としての批評の歴史の中に位置づけることが今後の主たる方向性となる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの蔓延により、予定していた調査旅行ができなかったため。また、研究成果発表のための出張を予定していた学会が中止もしくはオンライン開催になったため。
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