2020 Fiscal Year Research-status Report
First Generation Japanese American Literature: Making a Database and Literary Map based on Japanese American Newspapers
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20K00412
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
水野 真理子 富山大学, 学術研究部教養教育学系, 准教授 (40750922)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 邦字新聞の文芸関連記事 / 黎明期移民文学 / 『旭新聞』 / 『遠征』 / 『顎はずし』 / 『愛国』 / 『あめりか』 / 『日米』 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1880年代から開始した日系アメリカ一世の文学活動について、ハワイを含むアメリカ全土の邦字新聞を中心に、包括的な作品の整理、データベース化を行うこと、それを踏まえて一世世代の文学活動の見取り図を構築することである。またその際、日本語、英語の言語の壁を越えて、国外の研究者との情報交換、研究成果発表を行い、国際的な研究交流を進めることである。 2020年度は、1891年から1910年代を中心に、黎明期の新聞『顎はずし』『愛国』『あめりか』『旭新聞』『遠征』のデータ整理を行った。当初の計画ではこれらの新聞調査は入っていなかったが、『北米時事』『櫻府日報』『日米』『新世界』『羅府日報』など主要紙発刊以前の邦字新聞の紙面を押さえておくことで、主要紙における紙面、文芸欄の特徴をより掴むことができると考え、データ整理の範囲に加えた。重要な記事として「桑港における日本文学」(『遠征』1892年6月1日付)が得られた。その記事には「一種異色なる日本文学の発生を望むべけんや」との主張が見られ、ここから1892年という初期に、日本文学とは異なる独自の移民文学を求めていたことがわかった。 一方、黎明期の新聞資料を年代的に整理する作業と並行して、1915年から1920年までの『日米』での移民地文芸論争に焦点を当て、関連記事を整理した。翁久允、長沼重隆、伊藤七司、南国太郎、中西さく子、没羽箭ら文芸人が、移民文学を世界文学という文脈の中で捉えていたことが明白となり、この結果を小論にまとめた。共著『アジア系アメリカ文学研究の新地平』(仮題)として出版する予定である。 また2020年12月20日、日本移民学会冬季研究大会、国際ワークショップにおいてディスカッサントとして参加し、アメリカとブラジルにおける移民知識人や文学活動に関して、アメリカの研究者を交え英語での議論、研究交流を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、『北米時事』『櫻府日報』『日米』『新世界』他の主要紙の黎明期(1880年代から1910年代)を調査予定であった。本年度、『旭新聞』『あめりか』など別媒体を対象とはしたが、黎明期の新聞の文芸欄や文芸関係の記事を抽出、整理し、それらの特徴を掴むことができた。『あめりか』1905年から1906年には、やはり漢詩、俳句、短歌の投稿が多く、継続的に掲載されている。シアトル文壇の様子についてまとめた記事もあり、黎明期に活躍した師岡紫紅、藤岡鉄雪、上田台陰、大西南海の名が散見される。また日本の作家島川七石の『後の偉丈夫』が1915年、1916年の『旭新聞』に連載されている。この作品は磯部甲陽堂より1912年に出版されているため、『旭新聞』の編集者側でこの作品を転載した可能性が考えられる。このように、短詩形文学の頻出、文壇状況、日本の小説からの転載といった黎明期の特徴が、より具体的に明らかになった。また、在米日本人独自の文学を求める動きは、1915年頃にサンフランシスコ近辺での翁久允らを中心とする文芸人たちによって起こったと捉えられてきたが、1892年6月1日「桑港における日本文学」(『遠征』)に「一種異色なる日本文学の発生を望むべけんや」との主張が見られるように、1892年という初期にすでに、移民地に生きる日本人が描いた特徴的な文学が望まれていたことが新たにわかった。 また国外の研究者との情報交換、交流を促進するという目標においては、2020年度はコロナ禍のためアメリカの学会などに参加することは叶わなかったが、移民学会冬季大会の国際ワークショップに、ディスカッサントとして登壇したことで、日系アメリカ一世の知識人や文学活動について、またブラジルの日系社会を描いた作品について、アメリカの研究者と意見交換することができた。したがって、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、フーバー研究所の邦字新聞デジタルコレクションで閲覧可能な主要紙『日米』『新世界』に焦点を当て、1915年までの各紙のデータ入力を行っていく。『日米』に関しては、翁久允を中心とした移民地文芸論争が勃興する、1915年以前の紙面にて、どのような種類の文芸記事があり、また文芸欄にはどのような特徴があったかを考察する。それによって、翁久允が積極的に寄稿し始める以前のサンフランシスコ周辺の文芸状況について明らかにし、翁以外の主要な文芸人たちや彼らの作品の掘り起こしを行いたい。 また『新世界』に関しては、これまで文芸欄の特徴などについてあまり研究されていないため、文芸欄、文芸関連記事の特徴の整理、また着目されてこなかった文芸人の掘り起こしを行いたい。その際、『日米』の文芸欄との比較を行いながら分析する。そして得られた結果をまとめ、10月初旬締め切りの『富山大学教養教育院研究紀要』に投稿する。 その後、12月以降も継続して『日米』『新世界』のデータ入力を行いながら、整理した内容を再検討し、黎明期から1915年頃までの邦字新聞にみられる文芸活動を総括する。その際、『日米』の前身、『志やぱんへらるど』『桑港日本』の記事も調べる。それらとともに、2020年度にデータ整理を行った、黎明期の文芸関連記事から考察される文学活動の特徴を小論の形でまとめたい。そして、2022年度6月末締め切りのアジア系アメリカ文学研究会『AALAジャーナル』に投稿する。 そして、このような研究の過程で、取りこぼした点、再調査が必要な事項などを明らかにしながら、今後の課題や方向性を探り、次年度の研究につなげていきたい。
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Remarks |
雑誌連載:水野真理子「異色の小説家・翁久允(16)~(19)」『波濤』26巻319,321,323,325号、2020年8~12月。水野真理子 「翁久允の思想―再渡米とインド旅行(2)(3)」『綺羅』48,49号、2020 年5月,11月。
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Research Products
(2 results)