2021 Fiscal Year Research-status Report
First Generation Japanese American Literature: Making a Database and Literary Map based on Japanese American Newspapers
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20K00412
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
水野 真理子 富山大学, 学術研究部教養教育学系, 准教授 (40750922)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 邦字新聞の文芸関連記事 / シアトルでの文学活動 / サンフランシスコでの文学活動 / 『日米』 / 翁久允 / 長沼重隆 / 明石順三 / 山中曲江 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1880年代から開始した日系アメリカ一世の文学活動について、ハワイを含むアメリカ全土の邦字新聞を中心に、包括的な作品の整理、データベース化を行うこと、それを踏まえて一世世代の文学活動の見取り図を構築することである。またその際、日本語、英語の言語の壁を越えて、国外の研究者との情報交換、研究成果発表を行い、国際的な研究交流を進めることである。 2021年度は、まず『日米』に焦点を当て、1915年頃までの記事調査とデータ入力を行った。1915年から翁久允を中心とした移民地文芸論争が勃興するが、それまでの『日米』の紙面にはどのような文芸記事が掲載されていたのかを確認した。その結果、主要な人物として長沼重隆と明石順三が挙げられた。彼らは演劇に関心が高く、海外文学の知見も豊富で、特にイプセンの作品から多くの影響を受けていた。 この調査を行う過程で、1915年頃までのシアトルにおける文学活動との連続性や相違についても考察した。というのは、『日米』で勃興する移民地文芸論争の文脈をより正確に把握するためには、シアトルからサンフランシスコ周辺に移動した文学青年や新聞の編集者たち(例:山中曲江)の動向を把握する必要があったからである。シアトルで活躍していた翁ら文学青年たちが、『日米』を中心に活躍していた長沼、明石らの文学活動と合流することによって、どのような影響や変化が見られたかを、調査、整理した新たな文芸記事にもとづいて考察した。その結果、シアトルの文学青年たちによる、移民地における生活、煩悶などを当事者の立場から描くという傾向と、長沼や明石などによる、世界文学への目配りや文学の普遍性を追求する傾向が、相互に混ざり合い、移民地における独自性と文学としての普遍性の両方を獲得できるような作品を、彼らの移民地文芸として目指そうとしていたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、『日米』と『新世界』の両紙の調査を予定していた。しかし、2021年度に『日米』の調査を行う過程で、シアトルの文学活動からサンフランシスコ周辺への文学活動につながる連続性や相違について考察するという、重要なテーマを発見したため、『日米』に絞って調査を進めた。本研究では、邦字新聞デジタルコレクションを活用して、特定の地域ごとに部分的に認識されていた文学活動を、相互のつながりや連続性を考慮して立体的に捉えることも重要視している。『日米』に絞った調査によって、1900年から1910年ごろのシアトルとサンフランシスコにおける文学活動の相違を、かなり明確に捉えることができ、さらに1915年から1917年にかけての移民地文芸論争の文脈を明らかにすることができた。 その過程でシアトルの文芸雑誌『日米評論』や邦字新聞『旭新聞』も調査し、1900年から1910年ごろまでの文学活動の傾向、特に青年文士たちと酌婦たちとの関わりの中で生み出される文学という特徴を新資料によって跡付けることができた。加えて文学青年たちを激励し作品創作に駆り立てた編集者の片山景雄についても知見を広げることができた。 これらの研究成果を論稿「日系日本語文学におけるトランスボーダー性―移民地文芸の探求において」(共著『アジア系トランスボーダー文学―アジア系アメリカ文学研究の新地平』に収録)、「初期日系アメリカ文学の再考―邦字新聞デジタルコレクションを活用して」(『富山大学教養教育院紀要』3号)として発表した。またマイグレーション研究会第82回例会においてもこの研究成果を発表し、有益な指摘や考察点を得るに至った。 したがって、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度においては、サンフランシスコの二大紙のもう一方である『新世界』の調査を進める。その際、まずはシアトルでの文学活動からの連続性と『日米』における文学活動との差異を考察するために、『新世界』で活躍したジャーナリスト清沢洌の作品や動向に着目したい。清沢はシアトル時代に、翁らとともに作品創作に打ち込んでいた。その時代から『新世界』で活躍するまでにどのような経緯があったのか、作品にどのような変化が現れたのかを確認したい。また『新世界』の編集者松原木公の情報についても調査する。加えて、『新世界』と『日米』の新聞の特徴および両紙における文芸欄の相違も考察する。 もう一点、重要な事項として調査しておきたいのは、『日米』における民衆派詩人の動向である。ホイットマン、長沼重隆、福田正夫、清水夏晨らの記事を検索して整理することで、今までほとんど明らかにされこなかった、日本とアメリカを跨く民衆派詩人の活動について考察し、新たな知見を得たい。これらについては小論をまとめ『富山大学教養教育院研究紀要』に投稿する。 このような新聞調査と並行して、翁久允のアメリカ時代における文学活動について、再整理し論稿にまとめていく。なぜなら、本研究における調査の過程で得た新聞記事を活用することで、アメリカの在米日本人社会における文学活動の詳細が、翁自身のみだけでなく彼と他の文芸人たちとの関わりの中で、描くことが可能となるからである。翁の文学活動の軌跡を、1880年代の初期の邦字新聞や、シアトル、サンフランシスコにおける文芸雑誌、邦字新聞における特徴を踏まえつつ、さらには清沢洌、長沼重隆、明石順三、その他の文芸人や編集者たちの活動にも目配りしながら描くことによって、北米の西海岸地方の文学活動について、より立体的な像を示せるのではないかと考えるからである。これについては単著での出版を目指す。
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Causes of Carryover |
海外や国内での新聞資料調査を予定していたが、コロナ禍のため実施することができなかった。その結果、次年度使用額が生じた。
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Remarks |
雑誌連載:水野真理子「異色の小説家・翁久允(20)~(25)」『波濤』28巻329,331,333,335,337,339号、2021年4月~2022年2月。 雑誌連載:水野真理子「日系アメリカ短詩形文学―俳人・下山逸蒼の軌跡(6)(7)」『加州短歌』167号、168号、2021年6月、9月。
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Research Products
(3 results)