2020 Fiscal Year Research-status Report
リスク感覚の多元的表出と生存の詩学―大加速への文学的応答の研究
Project/Area Number |
20K00413
|
Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
結城 正美 青山学院大学, 文学部, 教授 (50303699)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | リスク感覚 / エコクリティシズム / 大加速 / 人新世 / 環境文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究で取り組む二つの課題のうち、2020年度は、課題1「「生存の文化」を参照枠としリスク感覚を表現形式の見地から分析する」ことを目的とした。 人新世を考察の枠組みとして主に放射能汚染をめぐる文学表象を分析し、論文"Eating Contamination in Japan's Post-Disaster Fiction"を執筆した。この論文は、Foodscapes of the Anthropocene: Literary Perspectives from Asia(編者Hannes Bergthaller)に収録される予定である(論文は受理済み)。 新型コロナウイルス感染症パンデミックにより海外での調査研究は実施できなかったが、国内では、福島県立博物館主催「ふくしまを書く」(講師:詩人・和合亮一、書道家・千葉清藍、2020年9月12日、於:福島県立博物館)に参加し、東日本大震災と原発事故の影響下にある福島での詩人と書道家の取り組みに接して、本課題に新たな知見を得た。 また、交付申請書の「国内外の研究動向と本研究の位置付け」に記載したとおり、本研究は狭義の文学研究に終始するものではなく、人文諸分野と協働する「環境人文学」(Environmental Humanities)の一実践と位置付けられる。この点においては想定以上の成果があり、青山学院大学英文学会での研究発表「環境をめぐるストーリーテリング」(本研究で取り上げるJohn Bergerの思想を紹介した)を契機に、関連諸分野の教員と協働してAGU環境人文学フォーラムを設立することができた(フォーラムの本格的な活動は2021年度から開始)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる移動制限のため、2020年度に参加を予定していた国際学会(KTHスウェーデン王立工科大学環境人文学ラボ主催)が延期となり、上述した課題1の点検を十分に行うことができなかった。また、コロナ禍の諸事態への対応に追われ、国内開催の学会発表の機会を逸してしまい、青山学院大学英文学会での研究報告が唯一の口頭発表となった。研究進捗状況を「やや遅れている」と判断したのは、口頭発表の機会が作れず研究へのフィードバックが十分に得られなかったためである。 とはいえ、研究が「やや」遅れているとしたのは、課題1に関わる論文 "Eating Contamination in Japan's Post-Disaster Fiction"を仕上げる過程で、当該論文が収録される予定のFoodscapes of the Anthropocene: Literary Perspectives from Asiaの編者Hannes Bergthaller教授(台湾・国立中興大学)と継続的に意見交換を行い、課題1に関して実質的に議論を深めることができたからである。Bergthaller教授はアメリカ文学の専門家であるがヨーロッパやアジアの研究動向にも精しい、世界的に有名なエコクリティックの一人である。その教授とのメールでの意見交換は、リスク感覚の文学表象の分析のみならず、課題2と関わる理論化の作業においても、示唆に富むものであった。 以上のとおり、口頭発表ができなかったことによる研究の遅れが、論文をめぐるメールでの意見交換である程度カバーできたというのが、2020年度の進捗状況である。
|
Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍で延期になったKTHスウェーデン王立工科大学環境人文学ラボ主催の環境人文学国際大会(2021年8月オンライン開催)で、課題1に関して研究発表"Redefining survival in the Anthropocene"を行い、研究の点検を実施する。他に研究の点検のために参加を予定していた金沢大学リスク・レジリエンス研究会は、コロナ禍で活動を停止しているため、7月にオンライン開催予定のノルウェー研究評議会国際共同研究Asia-Norway Environmental Storytelling Network (ANEST)のワークショップで研究報告を行う。 課題2「生存をめぐるリスク感覚に関する批評方法の洗練」に関しては、2021年5月に開催予定の日本アメリカ文学会東京支部例会での研究報告「アメリカ西部の文学的磁力」に一部組み込み、アメリカ文学研究者からのフィードバックを得たいと考えている。 また、課題全体に関する情報収集のためレイチェル・カーソンセンター(ミュンヘン)での研究を予定していたが、パンデミックで渡航できる状況にないため中止する。現実的にできることとして、文献・資料調査やオンラインでの研究会(ノルウェイ・スタヴァンゲル大学環境人文学プロジェクトによる毎週開催のオンラインブックトークなど)への参加を通して、課題に関する情報収集を行う。
|
Causes of Carryover |
2020年度に参加を予定していた国際学術会議が新型コロナウイルス感染症パンデミックのため延期となり、海外旅費を使用しなかった一方で、コロナ禍で文献資料調査の比重が高くなり文献資料購入費が当初の予定を超えた。全体として次年度使用額が生じた。北米やヨーロッパの研究機関や学術団体が主催する環境人文学の国際大会は、理想的な情報収集の場であるため、渡航できる状態になり次第、本研究課題を遂行する上で有益な国際大会への参加を検討する。
|