2021 Fiscal Year Research-status Report
リスク感覚の多元的表出と生存の詩学―大加速への文学的応答の研究
Project/Area Number |
20K00413
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
結城 正美 青山学院大学, 文学部, 教授 (50303699)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 人新世 / 環境人文学 / 環境文学 / エコクリティシズム / ネイチャーライティング / 核のごみ / 大加速 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は「課題2:生存をめぐるリスク感覚に関する批評方法を洗練させる」ことを主たる目的とした。大加速への文学的応答を近代批判という枠組で捉えることは主義主張の不毛な応酬に陥る危険性を伴うという認識に立ち、〈イズム〉に回収されない形で大加速時代のリスク感覚を考察する理論的手法として、交付申請書作成段階ではアンビエンス詩学(T. Morton)に着目する予定であったが、研究調査を通して諸存在の絡み合いを理論的に分析する上でロゴスとエロスの概念が有用であると気づき、それを枠組として作品分析を深めた。 研究の点検を行うため、以下を含む6件の口頭発表を行った(いずれも単独発表)。"Thinking Like Uranium: Planetary Imagination Toward Nuclear Waste" (ANEST International Online Workshop、2021年7月3日、台湾・国立中興大学オンライン)、"Redefining survival in the Anthropocene: literary and artistic interventions on nuclear waste disposal issues"(2021年8月4日、STREAM, KTH(Sweden)、オンライン)。 また、昨年度実績概要に記した論文の出版(共著書)が編者の都合によりかなり遅れることが判明したため、修正簡略版"Eating Contamination in Japan's Anthropocene Fiction"をASLE-Japan/文学・環境学会会誌に投稿し受理された(2022年6月刊行予定)。 環境人文学の調査と実践は順調に進んでおり、青山学院大学AGU環境人文学フォーラムの運営と発表、論文「ネイチャーライティング再考ーー人新世をめぐる想像力に向けて」(『英文學思潮』94巻)の発表等を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度は研究の点検を兼ねて意欲的に口頭発表を行なったが、いずれもオンラインでの会議で、期間中いつでも意見交換の機会が得られる対面開催とは異なり、フィードバックがセッション時間内の質疑応答にほぼ限られ、実質的な意見交換の場が持てなかった。会議での研究者との意見交換は、新たな知見を得る貴重な機会であり、それが実現しなかったことが研究の遅れの原因である。 徐々に会議が対面開催され始めているとはいえ、COVIC-19の収束が見込めない状況下、研究者との意見交換と対話を深める新たな手立てを考えなければならないと実感している。
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Strategy for Future Research Activity |
交付申請書に記載したとおり、課題2ではリスク感覚と生存の詩学を議論するための批評方法として「土着の知」(Indigenous Knowledge)に着目している。土着の知は人新世の枠組みではdeep timeと重なるところがあり、2022年度はdeep timeという概念の初出とみなされるJohn McPheeの作品Basin and Rangeをたどるかたちでアメリカ西部荒野のフィールド調査を行う予定である。これは交付申請時には想定していなかった調査であるが、本研究を進める過程でその重要性を認識した次第である。 文献調査は進んでいるが、「現在までの進捗状況」で述べたとおり、対面での意見交換の機会が極めて重要であり、コロナ禍で自由に移動できない状況下ではあるが、上記フィールド調査をはじめ、可能な範囲で研究調査を行い対面開催会議に参加する予定である。
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Causes of Carryover |
国内外の研究発表がオンライン開催となり使用しなかった旅費は、2022年度の研究調査で使用させていただく予定である。
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Remarks |
交付申請書の「国内外の研究動向と本研究の位置付け」に記載したとおり、本研究は狭義の文学研究に終始するものではなく、人文諸分野と協働する「環境人文学」(Environmental Humanities)の一実践と位置付けられる。この点において、青山学院大学英米文学科を中心としてAGU環境人文学フォーラムを立ち上げ、運営を行なっている。
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